隠し神 第3部 最終回

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 どんちゃん騒ぎみたいな婚礼が終わった。数日間は田中屋も臨時休業となった。俺も久しぶりでのんびりした時間を田中屋で過ごすことができた。そんなゆったりした時間を利用して俺はこれから何をするかなどと自分への命題を課して様々なこと考えていた。これからどんな仕事をすれば良いのか、洋子とも相談したが、洋子は自分の会社のことで手がいっぱいで、フン、フンと言うのだが、全く聞いていない。好きにすれば、っていう感じだ。いつまでもお客様状態では体が鈍ってしまう。自分の家へ引き上げるのが一番だ。
 久しぶりの我が家は、やっぱり落ちつく。小さな居間はくつろぐのにもってこいの広さだ。寝っころがっていても誰に文句を言われることもない。洋子は精力的に飛び回り、あの伯母さんみたいに会社を大きくしていくのだろう。
「サトルさん、たぶんあなた達には子供が生まれないと思うの。神様のお手伝いをしなければならないからよ。それでも構わないわよね。紘子と裕一郎君の子供は、あなた達の子供みたいなものだから」
 披露宴の終わりかけに伯母さんが言ってたことを思い出した。
 俺も薄々感じていた。子供ができないことを。それこそ神様の思し召しだからだ。あの時、ちょっと疑問に思ったことがある。伯母さんには旦那がいるのだろうか。披露宴には来ていたのだろうか。
「あなた、また考えているのね。性分だから仕方ないけど。じゃ、教えてあげる。伯母さんの旦那は神様になるまえのルーガブラなのよ。もうわかったでしょ」
 ルーガブラが洋子の伯母さんの旦那であるなら、ヨッチャンは洋子の姪にあたることになる。って言うことは、神様は人間とのハーフってことだ。じゃ、イデレブラの奥さんは元々は人間で、イデレブラも元々は人間だったことになる。それじゃ俺も歳をとればイデレブラのようになり、洋子との間にイッチャンやヨッチャンのように子供が生まれるのだろうか。
「そんなことになる訳がないじゃない。イッチャンやヨッチャンはまだ幼児だけど、歳は人間の最高齢よりも上なのよ。私もあなたもこの世を去ってからの出来事なのよ」
「そんなの論理的じゃないよ。じゃ、洋子の伯母さんは現在のルーガブラになる前の人間であった時の旦那なんだから、それはいったい何年前のことなんだ」
「あなた、神様と一緒にいろんな世界へ行ったり、瞬間移動していたのに、神様の本質をまだ理解していなかったのね。もう……」
 洋子はため息をついた。
 神様の本質は、自然の摂理に従い、生きとし生けるものが有意義に生き、命を全うすることを手助けするに他ならない、と俺は思っている。
「そうだよ。隠し神もその一分野だし、あのタマムシもそうだったでしょ。それはこっちの世界でもあっちの世界でも同じこと。ルーガブラとイッチャンはあっちの世界からやってきたの。いわば多元宇宙、多重宇宙の一つから来たわけなの。いろんな世界を行き来している中で伯母さんに出会って結婚した訳。それはね最近のことなのよ。神様はある意味でスケベなんだよ。あなたもね」
 ん、じゃ俺もどこかの世界からやってきて洋子と知り合った訳になる。
「そう、あなたも神様なの。あなたの分身が別の世界で生きていることは前にも話したでしょ。この世界でこれからも末永く生き、そして次の世代が安心して生きられるように手助けするのが私達の役目なのだから」

 生きている、ってことは、子孫を残すことだ。しかし子孫を残すことができない生き物が殆どで、残すことのできる生き物の方が〇%に近いくらい本当は少ない。それでも次の世代、その次の世代に繋がるように必死で生きているのが生き物だ。
 俺が別の世界で別のことをしながら生きていようと、重要なことは、いま、ここで生きているということを知ろうが知るまいが、生き抜かなければならないのだ。
 洋子と俺は別な世界では出会わなかっただろう。ここにいるから、こうして出会ったのだ。ここで俺は神様となるらしいが、そんなの成長過程の一つと考えれば、良くも悪くもない、ただの時間の経過に対する営みにすぎない。
 こうして考えて見ると、思考するって楽しいことだ。
「また、考えている。そんなのどうでもいいじゃない。お客様がいらしてるのよ。あなたにお礼を言いたいんだって」
 そう言って洋子は居間から出て行った。うちで居間意外にお客様に待ってもらえる所って食卓のところしかない。おれはダイニングを覗いた。綺麗な若い女性が洋子と話をしている。親しそうだから洋子の友達かも知れない。俺は照れ隠しみたいな感じで椅子の前に立った。
「その節はお世話になりました。無事神様達は目覚められました。みんなダメ男さん、いやサトルさんのおかげです」と言い深々と頭を下げた。
 この美人はウリボーだ。
「そうよ、ウリボーなの。ウリボーは海の神様になったの」と言い、洋子は俺の太股あたりを思い切りつねった。妬いている。ウリボーは男とばかり思っていたが、女の子で、それもお肌ツルツルで今が旬のはち切れんばかりの年頃のお嬢さんだとは思ってもいなかった。
 俺は「時間があればいつでも遊びに来てください」なんて言ってみたかったが、止めにした。
 神様の身内でも嫉妬心はある。波風は海だけで十分だ。

 お わ り
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