究極の完全犯罪 その35 最終回

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 何から話そうかしら、そうね、やっぱりあなた、吉田タダシがここへ来て住みついたころのことから始めましょう。
 吉田君が塚田に見舞金を持って行った時、勇祐がひょんなことからあなたが塚田に関心を持っていることを知ったのよ。それで何かの役に立つかも知れないと、ちょっとだけ調べてみたの。
 あの北本と同じ会社で、しかも同じ課であることや、しばらくして会社をクビになったこともわかったの。
 それからあなたのことをはもちろん、関係のありそうなあらゆることを調べ上げたわ。北本をやっつけることに執念を燃やしながらも同窓会で佐川先生や佐野君と楽しく話していたことも知っているのよ。
「俺がH病院へ行った時からって、まだ北本のことなんて、嫌味な若造だと思っていただけのころだよ」
 でも、私達には分かっていたの。副事務長と北本が病院を利用して不正をしていることを。それに手を貸しているのが理事長ってこともね。だけど確たる証拠がないから、どうにもならなかったの。吉田君がちょうど現われたので、もしかして、と思ったわけよ。
「いきさつは分かりましたけど、お姉さんや勇祐さんは、警察関係の方なんですか?」
 あ、それは内緒にしておくわ。ま、吉田君と同じ正義の味方のようなものね。
 それからが大変だった。北本がこの幽霊タウンで廃品回収の親玉みたいなことをしだしたから。これじゃまともに商売をしているこっちが倒産してしまうからね。娘婿の経営する英商事は小さいけれど、全う商売をしているから社会の最下層と言われている人達からも信頼されていたのよ。非鉄金属の商売をしている私の会社にも少なからず影響が出始めてきたからね。会社の大きさは英商事の100倍くらいはあるからね。家族を含めると1000人以上の人間を食べさせなければならないんだ。アウトローが土足で掻き回して、はいそうですか、では済まされないんだ。ハヤテを壊滅させることでまともな会社が生き残り、そして関係する人間に働きがいのある職場を提供するのも経営者の責務だからね。
 ま、そんな経営哲学はさておき、あんたの執念には脱帽だよ。三十代の男が一人の男を徹底的にマークするんだから。こっちもそれにつられて色々調べたよ。あの病院の理事長と副事務長親子は北本を傀儡としてハヤテの頭にし、そして甘い汁を吸わせるようにしたこともはっきりした。そのあげく塚田の猟奇的な死につながり、それが次の副事務長の死を偽装するものだなんて、普通では考えられないし、考えたとしても実行できないことだった。
「H病院という死に関わっている病院が不正をすれば、警察も欺けるってっことだよね」
 そう。病院には特権があるからね。吉田君も分かっていると思うけど、今のこの国において、死に場所は殆どの場合病院であり、その判断を下すのは医者でしょ。ある意味で病院という閉鎖された社会の中で医者や病院関係者は王様と家来みたいなものね。医者は人の生死まで操ろうと思えば操れるんだから。
 義理の息子の英一郎の兄である勇祐は元々H病院の薬剤使用量が同規模の病院に比べて異常に多いことを内偵していたらしいの。詳しいことは私達も知らないのよ。そこに吉田君が現われ、副事務長と北本があなたの方に目を向けるようになったから、良かったんだって。
「やっぱりね。そんなことがあり、塚田を殺したんだね。それに何故だか分からないが食堂の恭子さんまでも。だけどずっと疑問に思っていたことが一つあるんだ。理事長と副事務長の名前がA氏とB氏にずっとなっているのはどうしてなのかな?週刊誌までも」
 誰でもそう思うでしょ。あいつらの素性を明らかにすれば、今の政権が黙っていないからね。確実に訴追されるまでは仮名のままだと思う。
「だいたいの所は分かったけど、H病院はそんなに重要な位置を占めている訳だ。僕ら一般人は深入りしてはダメなんだね」
 そういうこと。けれどもできる限り犯罪は公にしなければならないのよ。大金持ちや重要な地位にある人でも、他人の命を犠牲にしては絶対にダメだよ。ま、あとは勇祐の仲間がちゃんとしてくれると思う。もう誰も心配することはないのよ。
「最後に、あの爆竹花火作戦を変更した訳を教えてください」
 吉田君のやり方だと、北本は確実に逃げてしまうでしょう。公道で花火をしたら北本の車だけじゃなく、関係のない車まで巻き込んでしまい、こちら側も警察に捕まってしまうでしょう。だからあの張りぼての家で近所の住人達も参加してもらい、花火大会をしたわけなの。近所の人達も夜中に騒ぐハヤテには腹が煮えくり返っていたのよね。だからお面を渡したら喜んで参加してくれたわ。張りぼての家は燃えちゃったけど、登記簿には家なんて記載されていないから、消防の方ではたぶん物置きが燃えたことになっているでしょう。本当は駐車場なんだから。
「ってことは、花火をした犯人も特定できないし、元々無かったものだから、たぶん病院の責任者は始末書だけで済むんですね」
 お姉さんはニヤッと笑って、私についてくるようにという素振りをした。
 またお風呂だ。気持よく入っていると小夜子と洋子が勝手に入ってきて「お背中流しましょう」と言った。お姉さんの仕業だ。俺は何も言わず頷いた。
「さ、急いでください。パーティが始まりますから」と洋子が言った。
 流してもらった後、急いで着替えをして小夜子たちと一緒に森を抜けた。
 そこには大きなキャンプファイヤーの木が組まれていた。
 やっとあの会社の名残りを払拭することができるのだった。
          (おわり)

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