究極の完全犯罪 その29

2003小説.JPG


 もしや、と思い、俺はあのハリボテの家に向かって走った。やっぱりだ。門が開き、バイクを入れている。そっと窺っていると頭に衝撃が走った。倒れそうになった。俺は瞬時に考えた。倒れた方が得だ、と結論が出た。
「どうした。早く中へ入れ」
「こいつが覗いてたんです。ぶっ飛ばしたら倒れました」
「持ち物を調べろ」
「金が四千円と小銭。どこの誰だかわかるようなものは、ありません」
「病院の反対側に池がある。あそこへ放り込んでおけ」
「死んじゃいますよ」
「それがどうした」
 あのドスの効いた声が響いた。
 俺はその声を覚えている。副事務長だ。やっぱりだ。このまま池に放り込まれるか、途中で逃げるか、どっちにしようかと考えていると、両腕を引っ張られ引きづられた。ジーンズが擦れ、尻の皮が剥けそうになった。
「もういいだろう」
「池までもう少しありますよ」
「かまうもんか。車に轢かれてもどうってことない。明後日の理事会の方が心配だ」
「うまく行くといいですね。あと三人の委任状であの病院はこっちのものなんですが、あいつら脅してもなかなか言うことを聞きません。ま、副事務長が策があると言ってましたが、本当に寝て暮らせるんですかね、北本さん、どう思います」
「暮らせるよ。疾風は解散して新しい組織になる。いや企業になるんだ。分かるだろ。けれども裏切ると終わりだよ。ハ、ハ、ハ」
 俺を放り出して北本はもう一人の男と話をしながら引き返していくようだ。俺はそのまま動かなかった。気配が消えるまでそのままでいた。十分以上そのままでいただろうか。薄目を開け、体を横にした。そしてダメージを受けているようにフラフラと立ち上がり池のフェンス伝いに歩いた。
 誰も見ていない。いや、寮のペントハウスに灯りが点っている。北本が俺のことを思い出したら、今度は殺そうとするだろう。ケツは痛いが、早くこの場を離れよう。
 朝になった。
 時計を見た。八時前だ。そろそろ看護士たちが動き出すころだ。短い時間しか眠らなかったが熟睡することができた。まさか池に沈めるはずだった男が自分達の家で寝ているなんて誰も考えはしない。しかし、今から脱出するとなるとちょっと厄介だ。逃げることを考えていなかった。このままこのハリボテの家にいたなら必ず誰かに見つかってしまう。出てゆくとしても今は朝の出勤時間帯だ。俺の格好は普通でない人間として必ず印象に残る。それは避けなければならない。
 あれやこれやと考えていると、下から足音が近づいてきた。やっぱり地下通路があるんだ。仕方ない。俺は素早くでかい四輪駆動車の下に潜り込んだ。タイヤが積んであるところの横の床がズレて、若い男が顔を出した。
 ドアを開けてごそごそしていたが、ファイルのようなものを持ってまた戻って行った。
 今のうちだ。
 俺はここぞとばかりに後ろのタイヤハウスに潜り込んだ。これなら十分に隠れることができる。車内にはスペアタイヤはないことは積んである一番上のタイヤのカバーから予測できた。
 しばらくするとさっきの男と北本がやってきたようだ。
「夜中に道に放り出した男が消えました」
「どうせこそ泥かホームレスだ。間違っても警察になんか連絡はしない。ま、夜の見張りだけは厳重にしろ、さ、行くぞ。あの理事を血祭りにあげればあとの二人はどうにでもなる。あいつが出てきたらすぐに目立たないように肋骨を二、三本折ってやれ」
 運転手が「はい」と言って車を動かした。
 理事の家に到着したようだ。二人は車を降りた。ドアは開いたままのようだ。道でタバコを吸っているのか、臭いが入ってきた。どうも家を出たところを襲うつもりのようだ。
 理事はまだ出て来ない。俺は外の二人が家に目を向けていると確信した。この隙に車から出て、車の後ろにしゃがんで隠れ様子を見た。あいつらは目出しマスクと大きな帽子、それにダブダブのコートを着用していた。
 理事の家の門が少し開いた。背の高い方、つまり北本ではない方が白髪の老人に襲いかかった。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント