究極の完全犯罪 その24

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 サトさんが笑っている。ハローワークのある所は官庁の出先機関が集まっている。家裁もその一つだ。怖いもの知らずの疾風であっても、法を守る裁判所の人達が利用する店は、本当は敬遠したいところなのだが、俺が利用していたことを知り、仕方なく毎日やってくるのだ。
 店の電話が鳴った。サトさんはメモをしながらしきりに頭を下げている。
「ありがとうございます」と言って電話を切った。
 そしてそのメモを二つ折にして俺のコースターの上に置いた。俺はそれをポケットに入れて店を出た。
 あの電話はサトさんが自分のケイタイからかけたものだ。電話に出たふりをして連絡したいことをメモったのだ。
 辺りを確かめて帰宅時の混んだ電車に乗り込んだ。あの幽霊タウンに久しぶりに帰るためだ。
 帰り道はちょっと遠回りをした。用心のためだ。
 幽霊タウンは以前と同じように薄明かりが数個点ってる。あのお姉さんや身内がまだ住んでいるのだろう。
 俺は小銭入れの中から小さな南京錠のカギを取り出し、お姉さんから少し離れた棟の、前に居た部屋に差し込んだ。開いた。ちょっとカビ臭かったが、雨露をしのぐだけだなら天国だ。ちょっと安心したのか、すぐに眠ってしまった。
 鳥の鳴き声で目が醒めた。
 昨日サトさんからもらったメモをじっくり読み返した。岸谷小夜子がいる場所だが、爺ちゃんや洋一の村からそんなに遠くない。洋一の妹は俺が爺ちゃんのところへ行く前から知っていたのだろう。また田舎へ逆戻だが、サトさんの店に張り込んでいた男と車の男の素性が分かれば、北本や疾風の動きも分かるというものだ。
 塚田がやっていた空き缶回収の後釜をやっている奴が、あの単車の男だと俺は考えていた。疾風の頭だと思っていた副事務長が殺されてしまったからには、資金源としては空き缶回収でも手広くやれば馬鹿にならない。それを確かめるには、この幽霊タウンのお姉さんを見ていればわかることだ。
 お姉さんは働き者だから、もう長屋を出て金目の物を探しまわっているだろう。俺は見つからないようにそっと幽霊タウンを探索することにした。昨夜は何もなかった空き地に空き缶が山盛りだ。家族総出で集めても一日じゃこうは行かない。ここへ周りの回収人が持ち寄っているのだろう。おばちゃん、いやお姉さんは見当たらない。
 突然背中を思いきり叩かれた。心臓が止まるくらい驚いた。
「兄ちゃん、久しぶりやな。また何か調べてるんか」
 お姉さんだった。
「塚田が殺されたでしょ。そやからこっちの調査も途中で終わってしまったんやけど、また続けてくれということになったんや」 
 俺も関西弁で話している。変だ。
「あの怖い事件なぁ。ここまで調べにきたんやで、警察が。こっちは空き缶回収のことしか知らんから、それで終わってしもうた」
「そうですか。それにしても大量の空き缶を集めたものですね」
「ああ、これか。塚田が殺されたあと、別の兄ちゃんがいままでの20パー増しで買うてくれるようになってん。そやからうちの家族の他に隣街のホームレスさんも参加して集めてるんや。いつもニコニコ現金払いはええもんやで。あ。来たわ」
 マフラーの壊れかかっているような音がした。お姉さんが嬉しそうに走って行く。空き缶の山の前で止まった。今にも壊れそうなボディが凸凹の古いトラックだ。二人の男が降りてきた。にこやかにお姉さんと話をしている。単車の男とは全く違う。疾風に属している連中には見えない。
 空き缶が積まれ、お姉さんがお金を受けとり嬉しそうに帰った。トラックは黒い煙りを吐いてゆっくりゆっくり帰って行く。あれじゃ遠くまで走れない。排ガス規制で捕まってしまうのが落ちだ。
 お姉さんが朝食を食べ終わり、洗濯物を干しはじめたころ、俺は近くで指笛を吹いた。「今度は何を知りたいねん?」
「いまの業者を教えてほしい」
「5000円」
 と言ってお姉さんは手を出した。

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