究極の完全犯罪 その18

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 それから1時間半が経過した。俺は会社の表にまわった。表門の社員通用門が開いた。塚田が出てきた。出たとたん唾を吐いた。そして鉄の扉を思いきり蹴飛ばした。あれじゃ靴の踵が壊れたに違いない。詳細は分からないが会社内で塚田が糾弾されたのだろう。
 塚田は会社から少し離れた民間の駐車場へ向かった。あの高級外国車が出てきた。俺はあとをつけずに、反対方向に車を飛ばした。塚田はたぶん俺が勤めていた会社へ行くか、途中で北本を拾うはずだ。だから先回りをして病院へ向かった。
 病院に着いて俺はすぐに事務室の奥にある理事長室のあたりを足早に歩いた。途中、看護士が胡散臭そうな男がうろついているという目で俺を見た。それでも俺は軽く会釈して奥へ進んだ。
 俺は事務室を過ぎたところでボールペンをわざと落とした。そして拾うふりをして、ドアの下の廊下に接する木枠のところに超小型超高感度の集音マイクを張り付けた。
 病院の駐車場に行こうとしていると、ちょうど塚田と北本が入ってきた。俺は備え付けの雑誌を見てるふりをした。あいつらは気づくことはなかった。いやに焦った風に足早に事務室方向に向かっていた。
 理事長室の手前で立ち止まり塚田が北本の顔をうらめしい感じで見つめて言った。
「副事務長に就職先を世話してもらいたい。ダメだったらあんたの今の生活もおじゃんになっちゃうよ」
「おい、会社をクビになったくらいで、大きな態度だな。そんなの無理だね。廃品回収を本業にすればいいんだ。リサイクルは立派な職業だよ。これまでの給料の3分の1くらい稼げたのも廃品回収があったからこそだ。だから廃品回収を今までの4倍働けば、元通りじゃないか。ま、頑張れよ」
 そこでゴソゴソという音がした。
「この野郎、大きな顔をしやがって。ケンカもできないくせに。・・・・ おい、ドラ息子、やめてくれ」
 このあとバシッと音がした。
「早くそこの物置きに入れろ。もうすぐ外来は終わりになるから。それからだ、こいつの処分は」
 俺は北本が塚田に殴られ、そのあと理事長の息子が塚田に何かをしたのだと思った。あのノイズのような音はたぶんスタンガンで放電した時の雑音だと想像できる。塚田は気絶させられたのだ。理事長の息子の声はドスが効いていた。北本の比じゃない。アウトローの世界にどっぷり浸っていることを声で示していた。
 3時間、北本と理事長の息子が塚本を運び出すのを待っていたが、あの高級外国車は動かなかった。
 胸騒ぎがした。あの食堂のおばちゃんと同じように、どこかの病室で一般の人間が知らない薬剤を投与され、最終的には病死という診断が下されて終わりだ。突然死で片付けられてしまっても知識のない一般人は反論することすらできないのだ。早く探さなければならないが、どの病室にいるのかわからない。
 俺は持てる能力の全てを投入して塚田を監禁できる場所を考えたが、分からなかった。
 食堂のおばちゃん、恭子さん。そうだ、サトさんに聞けば何かわかるはずだ。俺は携帯電話でSのところを押さえた。一件しかないから。それがサトさんだ。電話をかけた。
「あら、吉田さん。どうしたの。近頃来ないわね」
 俺は手短に用件を言った。すると「二階のステーションの横」と言って電話が切れた。これだと他の人が聞いても意味が理解できない。さすがだ、と俺は思ったが、あと少しで夜の面会時間は終わってしまう。
 急いで二階のナースステーションに行き、横の部屋を覗いた。そこは集中治療室になっていたが、患者はいなかった。しかしおばちゃんはこのICUになにかカラクリがあると考えているみたいだ。俺は辺りに気を配り、慎重に中へ入った。奥に扉があった。たぶんこの向こうは霊安室に続いていると俺は思った。集中治療室で亡くなる場合が多いが、そのときにここから運び出し必要な処理をするはずだから。
 ドアを開け、まっすぐ行くとエレベーターと階段があった。階段を降りると二つドアが現われた。二つのドアには集合住宅にあるような小さなレンズが付けられていた。覗いてみると、右の部屋に誰かが横たわっている。塚田みたいだ。どうしよう? このままだとおばちゃんみたいに殺されてしまう。殺されるほど悪いことをしたわけではない。とにかく命だけは助けてやらねばならない。どうする。ちょっとだけ考えた。俺は塚田を霊安室から引きずり出すことにした。息はしているみたいだが、完全に意識はない。
 ちょっとだけドアを開けて廊下の様子をうかがった。
 遠くに人影が見える。おれは塚田を廊下に出し、この霊安室にある燃えそうなものを探したが、少し堅そうな箱があっただけで。それ以外は何もなかった。仕方ない。箱に火をつけて少し開けたドアのところに置いた。箱はくすぶり、しばらくしてボッと炎が上がった。俺は全速力で集中治療室に戻り、別の階段から一階へ向かおうとしていた時に非常ベルが鳴った。ゆっくり降りて一階の出入口でちょっと防犯カメラの方に目をやった。それは俺の賭であり、験担ぎでもあった。素性がばれればそれでお終い。何もなければ目的は達成できると考えている。

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