究極の完全犯罪 その16

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「オラオラ、ホームレスが恐喝か。ふん、疾風にケンカを売るとは大したものだ。え、この落としまえ、どうつけるんだ」
 疾風と聞いて鼠男達はすごすごと引き上げてしまった。お姉さんは北本が出てきた時にはすでに立ち去っていた。さすがだ。
 これでうまく行った。まずは北本の本性をビデオにおさめることが出来た。それにバックにいる組織が疾風だということも。疾風はどこの組織にも属さないケンカ好きが集まった集団だ。加入している若者達は問題が起こると金ですぐさま示談に持ち込むことで知られ、その筋の者さえ手出ししないと言われている。つまり金持ちのワル達なのだ。
 やっぱりあの病院の息子が関係しているのは間違いない。
 お姉さんにはちょっと怖い目をさせたと思うが仕方がない。あのホームレスたちは隣街からバイトとして集めてきたが、三人で三万円はちょっと痛かった。金は先に渡したので本当に来るかどうか信用してなかったが、案外約束を守るのだ、と改めて思った。
「そうだよ約束は守るんだよ。ホームレスでもね。これで君も納得したかい。それじゃ、このバイトの意味を教えてもらおうか」
 鼠男が言った。朝日にスキンヘッドが輝いている。あの変装は大したものだった。
 俺は本当のことを話そうかどうか迷った。相手はホームレスだ。金さえ渡せばどの方向にも向いてしまう。もしも北本たちの疾風に属していたらこっちの命が危うくなってしまう。あの岸谷小夜子と最初に話をしたときのように、裏切られることもある。慎重に答えなければならない。そう考えていても、約束は守らなければならない。自分の吐いた言葉には責任をもってこそ、復讐する意義があると俺は思っている
 躊躇するなんて考えなくていい。論理的に考えても北本は俺のことなんてとっくに忘れていると見るべきだし、ホームレスたちとは生きている時間帯のようなものが違う気がする。全くの別の人種だと俺は確信している。もしも北本と関係があるのなら俺の負けである。いさぎよくこの世から去ってやろうではないか。二週間にわたりこの男達の行動も調べたが、三人とも誰の命令も受けず独自に行動し、なんとか生きている風だ。俺の名前や素性を知ったところで、金にもならない。こっちが正直に話した方が、後々協力してもらえることもあるかも知れない。
「本当のことを言うね。俺はあの男達に鉄槌を下すために行動しているんだ。怪我はしたくないし、もちろん死にたくもない。だから鉄槌を下された方は何がなんだか分からないうちにやられている形でやろうと考えているんだ」
「おもしろいね。それだけ聞けば十分だ。私は生きていること自体がめっけものだと思っている。ま、何かあれば、あそこのバラックに来ればいいよ。名前はお互い知らない方が良いけれど、ま、スキンヘッドと言えばわかると思うよ。じゃ、帰る。頑張れよ」
 こう言ってスキンヘッドは去っていった。あと二人はすでに立ち去ったのか、それともどこかで俺を窺っているのか、姿も気配もなかった。

「ちょっと、あんた。探偵さんの知り合いみたいだけど。さっきは本当に怖かったんだから。一万円ぽっちじゃ割にあわないから、何とかしてくれとお姉さんが言ってたと伝えてくれない」
 おばさん、いやお姉さんが増額を要求してきた。スキンヘッドとの話にも聞き耳をたてていたのだろう。俺はにこやかな顔でおばさんを見、好印象を与えてからケイタイを出した。お姉さんは俺のことを全く気づいていない。
「ちょっと待ってね。増額してもらえるように話してみる」
 お姉さんから少し離れ、ケイタイで話しているふりをした。
「僕が立て替えることになった。予算の都合で五千円だって。それで良いならこの場で支払うけど、領収書がいるんだ。僕が支払ったことを証明するためにもね」
 こう話すとお姉さんは指で丸印を作った。俺はこんなこともあろうかと思い、あの探偵事務所の名称を刷り込んだメモ用紙を用意しておいた。それをお姉さんに渡し、金額と住所氏名、それにサインをしてもらった。
 おばさんは五千円を受け取ると、満面の笑みを浮かべ、勝手に世間話をし出した。

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