ク マ  その3

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 もう寒くはありませんが、オッサンが随分長く私を見つめていたので疲れました。お腹もペコペコです。こっちを見ているにもかかわらず、何か考えていた風で心ここにあらずの感じでした。そしてまた回れ右。ちょっとスピードを速めて走り去ったので、ま、一安心っていったところです。
 角を曲ったのでもう見えませんが、今日は私もよくよくついてない日だと思ったとき、くしゃみが出ました。ウワンと一度大きく吠えただけですが、あのオッサンはびっくりしたかも知れません。静かな河川敷の道ですから遠くまで聞こえたことでしょう。
 こんなに暗くなってしまったから、もう夕飯を食べることはできません。いまから探すには遅すぎるのです。
 河川敷公園のベンチの横にいつも餌を持ってきてくれる奇特な太ったオバサンがいるのですが、いつも日が落ちた頃のことです。最初に体の大きな私が食べて、順に小さな仲間が食べる慣わしになっています。もちろん小さい仲間からの場合もあります。それは私が決めるのです。私が一番年上なのですから。昨日たくさん食べたので「明日は小さい順だよ」と言ったので、私の分も残してくれているのですが、こんなに遅くなると残った分は別のグループに横取りされていることでしょう。
 腹を空かしながらトボトボ歩いていたら、スルメやピーナツの臭いが前方からしてきます。

 真っ暗になってしまった。幸い月明かりがあったので、道を外れることはないが、なんだか心細さが増して来る。あのクマはこれからどうするのだろうか。餌にありつけなくて困ってることだろう。野良犬だから仕方ないと言えばその通りだが、動物を捨てる奴がいるから、他の人間が迷惑するのだ。
 また、バカなことを考えてしまった。クマに遭遇したばかりにこんなことを思うのだろうか。仕方ない。河川敷公園で食べようと思っていたおやつでも落としておこう。どうせ後ろからついてきているに違いない。さっき大きな吠え声が聞こえたが、何か食べる物を欲しがってのことだろう。
 ウエストバッグに水と一緒に入れてあるスルメとピーナッツが入った袋を取り出した。歩きながら少しずつ落としておけばよい。犬は鼻が利くから少々暗くてもすぐに見つけて食べるはずだ。あ、スルメを犬が食べているところなんか見たことがない。ピーナッツもそうだ。猫はスルメというかイカは食べないことは知っているが、犬はどうだろうか。かまやしない。人間が食べているのだから他の動物だって食べるだろう。ましてや腹を空かしているのだから。
 一〇メートル間隔ほどで落として行くと、公園の手前で袋がからになった。ちょうど帰り道の坂のところだ。

 私は腹が空いていたので、道の中央に落ちているピーナッツを食べました。コリコリしてちょっと油っぽいけれども、塩味がしてなかなかのものだと思いました。次にスルメが落ちていました。もちろん初めての食べ物です。噛んでも噛んでも噛み切ることができません。人間はこんなに硬くて、しかも弾力のあるものを食べるなんて、どうかしていると思いましたが、暫くすると口の中に美味しいイカのエキスが溜ってきます。次のピーナッツが落ちていたので、これ以上噛むこともなく飲み込み、豆をほおばりました。こんなことを続けているとお腹が膨れ元気になってきました。もうすぐ坂のところです。人が立っているのが見えます。別の人間だったらまた身を隠さなければなりません。自慢の鼻で臭いを嗅ぎました。あのオッサンの臭いです。
 坂の途中にオッサンが立っているのです。何をボケーッとしているのでしょうか。何か道の上にいるようですが、人間の腰の上くらいまで草が伸びているので、確認することができません。
 食べるのを止めて私は走りました。嫌な予感がしたからです。
 坂の上の方に餌を食べに来る別のグループの野良犬が三匹、オッサンをにらんでいるのです。そのうちの一匹は私よりでかい、この辺り一番の荒くれ野良犬です。これまで何度か喧嘩をしましたが、一度も勝つことができなかった相手です。
 私はそれでもオッサンを守ることに決めました。夕飯の餌をくれたオッサンにお返しをしなければならないとの思いもありますが、このままではオッサンはボスと呼ばれるあの荒くれ犬に咬みつかれるのは必至です。そんなことになればこの河川敷あたりに棲んでいる私達野良犬は全部駆除されてしまううでしょう。自分達の身を守るためにもボスをオッサンに咬みつかせてはならないのです。

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