隠し神 第3部 No31

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 風呂に入り紋付袴に着替えて高砂の席についた。どうして高砂なのだろうか。縁起の良い意味らしいが、俺らの世代ではよくわからない。
「阿呆なことをまた考えているな、ダメ男。席についたなら、前を見ろ。結婚式を祝うために神や友人が大勢集まってくれたのだ。お礼の一つくらい言ったらどうだ」
 イデレブラがあっけにとられている俺をたしなめる。
 二列に並んだ神たちは、俺が知っている神たちなのだろうが、いつものメンバー以外はよくわからない。それよりも驚いたのは神以外というか、人間の出席者だ。爺さんから二十歳くらいまで年齢は様々だが、テレビで毎日顔を見るタレントや俳優、それに我国のトップクラスの人物まで座っているようだ。
「本日は私と洋子の結婚披露宴に参列していただき誠にありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」
 勝手にありきたりの言葉が口から出た。そして洋子も頭を下げた。出席者全員が盛大な拍手をした。
 俺は、拍手が終わるまで、これは披露宴であって式ではないはずだ。そんなことを思ってみんなを眺めていた。
「あたりまえじゃ。本物の神が出席している中で神前や仏前、教会の式でもあるまい。初めから式は予定していない」
 イデレブラがつっけんどんに言う。その言葉は乱暴だが、顔は綻んでいる。イッチャンとヨッチャンも元の子供に戻り紘子の横を離れない。まるで紘子は二人の母みたいになっている。この子供神の父親はここに出席しているが、母親のことはイデレブラにもルーガブラにも聞いたことはないと思う。どうしたのだろうか。
「ダメ男、いつも余分なことを考えているではないか。それが良い所でもあり、悪い所でもある。森川首相の挨拶が終われば無礼講となる。その時に元締に尋ねれば済むことだ」
 挨拶をしている時に、どこかで見た有名人だと思っていたが、そこまで総理大臣だとは思わなかった、ここの大広間以外は客室が五つあるだけだ。SPなんかは何処にいるのかな?
「ダメ男さん。総理大臣のヘソ踊りでお終いよ。笑い死にしないでね」
 麗奈婆さんが言う。
 紘子の三味線に合わせて森川総理が上半身裸になり、顔が描かれた太鼓腹を膨らませたり引っ込めたりする。一同大爆笑だ。まったく普通のおじさんに戻った総理大臣自ら腹踊りを楽しんでいる風だ。ぜいぜい言いながら踊りは終わり俺に握手を求めてきた。俺はきつく握り返すと、総理大臣は涙をながして両手にさらに力を込めるのだった。
「楽しかったのう。これで当分は我国も安心じゃ。頼みますぞダメ男君。それじゃ、元締に締めくくってもらい、お開きとするか」
 この中に元締がいる?
 有名人らしき人はわかるが、あとは普通のサラリーマンみたいであり、主婦みたいなおばさんの感じで、田中屋旅館の長年の常連客みたいだ。誰が元締なのか見当がつかない。
「あなた、判った?」
「判らないよ。元締とは千手観音や三階層上の世界で一緒だったけれど、一度も顔を見せずじまいだった。ここにいる出席者に元締はいないような気がする」
「ちゃんといるよ。ほら」 
「どこにいるんだ。現代の格好でいたら、神様が誰かわからないよ。総理大臣に尋ねてみようか」
「それがいいわ。森ちゃん、私のお婿さんに教えてあげて」
「お嬢、それではお教えすることにしましょう。ダメ男君、元締はここにいる全員なのだよ。私もそうだが、田中屋旅館の仲居さんまで、すべてが元締なのだ」
 この場にいる神も人間も元締なんて、納得がいかない。もう一つ、信じられないことがある。一国の総理大臣が洋子のことをお嬢なんて呼んだことだ。まるで洋子の方が上位にいる感じだ。
「そうですよ。私達は洋子お嬢にお仕えする身です。紘子様も同じです。この国が平和でいられるように願っているのが私達神族につながる者の定めなのですから」
 この国の平和を守っているのが田中家なのか。それは良いことだが、洋子は一度も神様に近い存在などと話したことがない。一年ほど前までは普通の女の子だったじゃないか。急にイデレブラたちと繋がっているなんてわかっても、すんなり受け入れられるものだろうか。

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