隠し神 第3部 No.22

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 さ、行くぞ。俺は心に念じ巨人めがけて猛スピードを出すために必死で駆ける真似をした。足を出来るだけ早く動かし、続いてスーパーマンに似せた格好で飛び上がった。
 モニターで外を見ると凄い早さで飛んでいる。巨人の顔が憤怒の形相になってこっちを見ている。もう少しで衝突となった時に目の前に大きな拳が迫ってきた。この拳を砕かなきゃ首の付根へ激突することはできない。
 なるようになるだけさ。
 俺は天命に任せ直進した。
 拳に衝突した。一瞬衝撃があった。スピードが落ちた。が構わずに俺は観音様を立て直し、首の付根をめがけて飛行した。
『ダメ男、自殺するつもりか。当たれば仏像は木っ端みじんだぞ』
 ヘルヘイトの叫びだ。
 いままでのヘルヘイトの余裕はどこへ行ったのだ。この観音様に恐怖を抱いている。俺は勝利を確信して千手観音を突進させた。
 今度は軽い衝撃があったが、飛行姿勢を変えることはなかった。
 しばらくして後ろを見た。巨人が首の部分を中心に爆発したみたいだ。まわりに小さな銅板の破片がキラキラ輝いている。
 花火みたいな光景に見とれている場合じゃない。バラバラになった変な物を回収しなければならない。義父はとっておきの手があると言ったが、どこにそんな手があるのだ。
 頭を巡らしながら周りを見た。なんだ、これは。
 小さな銅の破片に何かがくっついている。一つや二つではない。無数の銅板にくっつき始めた。なんだ、あれは。
「ダメ男君。あれをスローモーションで見たらなんだかすぐに理解できるよ』
 スローモーションなんて、どうすればできるのだろうか。ビデオ再生の要領でコマ落しのように動かす振りをした。
 スローになった。目の上から何かが飛んで出ている。もっとゆっくりじゃないと、何だか分からない。更に遅くなった。はっきり分かった。
 手だ。観音様の手が一本ずつ破片に向かって飛んでいるのだ。
 とっておきの手は千手観音の手だった。これなら納得がいくが、無数の銅板には対処できないではないか。
「ダメ男君は千手観音のことを忘れているようだな。最初に元締が説明したことを思い浮かべれば分かるはずだよ」
 三階層上の世界へ移動する時に元締は千手観音を使っている意味を説明してくれた。あらゆる者を救済するためのものだと話していた。千手と書くが、これはあくまでも仮の数字であり、沢山という意味合いだ。つまり千手ではなく万手でも億手でもよいのだ。
 観音様からの手の飛び出しがなくなった。前方の破片も消えた。俺の乗ってる観音様も軽くなっているのだろうか。
「ほんと、ダメ男君は余計なことをいつも考えているね。観音様が重かろうが軽かろうがどうでもよいではないか。そんなことを考えるよりウリボーのいる場所を探すのが先決だと思うが、どうだろう」
 義父は今度は提案型になって、俺に呼びかけている。手に気を取られ、最も大事なウリボーの救出のことを忘れていた。
 観音様の手で集められた破片は一つにまとめられているようだ。海面の近くでおむすびを作るように大きな二つの手が、上と下で包んでいる。
「お義父さん。変な物を消滅させることはできるのですか?」
「いま一所懸命観音様が変な物を分解しているのだけれど、一つ足らないらしいんだ。その一つにウリボーが捕まっている。小さい破片だが、大きな物でもあるんだ。もう僅かしか時間がない。頑張ってくれ」
「あなた、頑張って」
「お義兄さん、頑張って」
 洋子と紘子の声が聞こえた。早くウリボーを助けなければならないけれど、義父だけでなくどうして洋子たちの声まで聞こえてくるのだろうか。ひょっとしたらこの千手観音は義父の部屋の本棚に隠してあったもので、ヘルヘイトが戻ろうとした時に光り輝いた、あの千手観音なのか。きっとそうだ。この観音様は田中屋と繋がっているはずだ。ひょっとしたら千手観音を操作する俺の変な格好もみんな洋子達は見ているのかも知れない。滑稽だが、見られて困るようなことはない。せいぜい楽しんでくれ。
 あ、またウリボーのことを忘れていた。僅かしか時間がないと義父は言ったが、何時間くらいなのだろうか。
「二十八分だよ。早くしなきゃウリボーが死んじゃうよ」
 洋子が泣き声で言う。さっきの頑張って、と言った口調とは随分違っていた。

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