隠し神 第3部 No.18

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※ ※ 前回は7月30日でした。その続きです。

 ボケーッと外を眺めているときにふと疑問が湧いてきた。こうやって時空を翔る千手観音に乗っているが、どうして洋子のお父さんが千手観音を飛ばすことができるのか、不思議だ。歴史的には境界の家に関係していたと思われる田中家だが、神様ではない。連綿と続く旅館の主人でしかないのだ。
「そういったことはまたの機会に話しましょう。ダメ男君は千手観音を使ってウリボーを助けること、つまり神様の揺りかごをいち早く救出することなのです。じゃ、今からダメ男君に飛ばしてもらおうかな」
 義父は後ろへ下がった。俺は前に立ち白毫のあたりの内側をコチョコチョと撫でてから、上を向いたり手で右や左を指さしたりして千手観音を飛ばした。
 カクカクした動きになると思っていたが、滑らかで気持ちよく飛ばすことができた。
「さすがだね、ダメ男君。要領は分かったみたいだから、大丈夫だ。じゃ、そろそろ帰ろうか」
 義父は言うが、俺はこのまま南の海へ行ってウリボーや揺りかごを救出した方が手っ取り早いと思った。それで勝手に南へ飛ばそうとして、さっき行なった方法で、白毫のところをこそばし、ウリボーのいる海域を思い浮かべ手で表現した。しかし、いくら手振りや身ぶりで頑張って飛ばそうとしても千手観音は空中で静止したままで、一ミリたりとも動かない。
 俺は振り向いた。義父はニタッと笑ってから元の柔和な顔になり、目を瞑った。
 勝手に別な所へ行こうとしても言うことを聞かないのが観音様の宇宙船なのだろうか。義父は教えてくれそうにもない。仕方ないから自宅へ帰ることにした。
 庭に到着したら千手観音は勝手に小さくなり、俺達を放り出す形になった。
「あら、割合早く帰れたわね。この人の操縦の腕はどうだった、父さん」
「ダメ男君はすぐに自分の考えを実行に移そうとするクセがあるね。ちょっとおっちょこちょいだけど、それだけ判断力があるということだよ。だから神様に選ばれたのかも知れないが、私を乗せて助けに行こうとするんだからビックリしたよ」
「ダメ男さんて、あなたの若い時と似ているわね。やっぱり洋子が選んだだけのことはあるわ。紘子にももうすぐダメ男さんみたいな良い男性を見つけてあげなきゃ。ね、お父さん」
「また始まった。いつになったら紘子のお婿さんを連れてくるの。私も待ち遠しいわ」
 田中家の内輪の話になってしまった。一人で助けに行かなければならないから、この話には加わらず、もう一度千手観音を飛ばす練習をしようと庭の真ん中へ置いた。すると観音様はまた勝手に巨大化した。
 俺は義父と練習した時と同じように白毫のあたりを撫で、顔を天井に向けた。
 飛ぶはずの観音様は静かなままだ。何か手順を飛ばしたのかもしれないと思い、義父と練習した時のことを思い浮かべた。もう一度外へ出てみようとしたが、ドアが開かない。
 目の部分のモニターを見ると前方に桜島が迫ってきている。このままじゃ火口付近に当りそうだ。俺は両手と上半身をフルに使い千手観音のコースを左へとった。何とか避けて桜島を行き過ごし、硫黄島を通過した。左手に屋久島が見える。こんなに速く、しかも正確に奄美方面へ飛んでいるのはどうしてだろうか。義父がコース設定でもしておいたのだろうか。不思議だ。
 前方に見たことのある大きな形の影が迫って来た。衝突する寸前に揺れることもなく千手観音ま止まった。あの人の形になった変な物が変身した巨人だ。しかし、巨人はただ突っ立っているだけで、動かない。右手は高く天を掴もうとしている感じだ。あ、ここは巨人から逃げたとろじゃないか。全く同じところにこの巨人は突っ立ったままでいたのか。
 俺は千手観音を上方へ飛行させた。巨人の右手の先端は俺を掴もうとしたかっこうのまま止まっている。こんなに近くで観察しているが、巨人は動こうとしない。まるでハリボテみたいで、中身が抜けてしまってるように感じられる。
 そう思ったからには、俺は観音様をハリボテに衝突させることにした。これだけ速く飛ぶことも次元を翔ることのできる千手観音だから少々のことでは壊れることはない。

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