隠し神 第3部 No.16

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 妹の紘子君が来るのか。しかし変な物を消滅さすための方法を知っている人間なんているとは思われない。神様さえ見たことのない人間が変な物のことを知っているはずがないじゃないか。
「あなたと元締がヘルヘイトと戦った時、観音様で時空を超えたのを覚えてる?」
「覚えてる。忘れよとしても忘れられないことだ」
 元締が用意してくれた大きな観音様の中に入って移動したことは今でも鮮明に思い出される。それにどうしてか食べかけのイチゴ大福のことも。みんな元締と繋がっている忘れられないことだ。
「あのとき、私と紘子が観音様に祈ったことは話したでしょ。小さい時から父に教えられていたことだから。あれは私一人にだったけれど、紘子も何か教えてもらってるに違いないと思ったのよ」
 双児の姉妹だから、そんな風に考えるのは合理的なことだと思うけれど、俺がいま、ここへ戻って来て、次にすることを妹の紘子が教えてくれるなんて、なんだか最初から台本に書いてある通りに行動している感じで、俺としてはおもしろくない。
「あなたが面白いとか面白くないなんてことはどうでもいいの。お爺ちゃんたちの将来に影響することなの。久しぶりに紘子が来るんだよ。あなたも会いたいでしょ」
 洋子は意味ありげに言う。洋子と勘違いして風呂に入っていたことを揶揄している。やっぱり根に持っていたのかも。
「馬ッ鹿じゃない。私と紘子は一心同体みたいなものよ。そんなこと思うはずがないじゃない。もうすぐ来るから、シャワーを浴びて着替えてちょうだい。潮の臭いと汗臭さが混ざった感じで、臭いわよ」
 ちょっと心に浮かべたことを確実に読み取っている。もう言葉に出さなくても洋子とは会話ができるようになった。
「それは無理でしょ。私の考えていることをあなたは分かろうとしないじゃない。それがかえって良いのかもね。だから二人で仲良くいられるのかも知れないわ」
 元々他人がどのようように考えているかなんて、俺には関係ないことだ。いちいち他人のことばかり慮っていても自分をなくしてしまう感じがして、そんなふうに生きるには厭だったからだ。
「それがあなたの良い所。あ、紘子が来たようよ。早くシャワーを浴びてちょうだい」
 そう言って居間を出ていった。仕方ないから風呂で体を洗っていると、大きな笑い声が聞こえてきた。爺さんやウリボーが危機に瀕しているのに呑気なものだと俺は思ったとたん、洋子の大きな声が聞こえた。
「おいしいイチゴ大福があるわよ。はやく上がってらっしゃい」
 やっぱりイチゴ大福で落ちつく双児の姉妹である。あの食べかけのイチゴ大福で救われたのは事実だが、縁起が良いから、いつも洋子は買うのだろうか。違う違う。女性は甘いものが好きだからだ。
 タオルで頭を乾かしながら居間へ行くと姉妹と見知らぬ年輩の夫婦らしい二人が座っていた。
「初めまして。田中です。娘達がお世話になっています。今後ともよろしく」と二人して立って挨拶するのだった。
 そんなの聞いてない。寝耳に水というか、瓢箪からコマというか、違う、猫に小判というか、違う違う、全く予期しなかったことであり、初めて洋子の親に会っているのだ、という実感も何もなかった。ただあっけにとられているだけだ。
「洋子のお父さんとお母さんですか。初めてお目にかかります。すでにお知りのことと思いますが……」
 しゃべっているうちに何を言ってるのか分からなくなり、しどろもどろしている自分を冷静に見ている別の自分がいる感じがした。事実上の結婚から二年以上して、初めて妻の両親に会うなんて、考えたこともなかった。普通では絶対にあり得ないことが今起きているのだ。支離滅裂な挨拶を洋子の両親はニコニコしながら嬉しそうに聞き、そして俺を見て頷いている。

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