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zoom RSS 隠し神 53

<<   作成日時 : 2018/05/29 09:10   >>

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画像 死にかけた勇太もすっかり元に戻ったらしく、グイグイ飲む。さすが漁師だ。しかしだんだん酔っぱらってきた。
「ちょっと聞きたいです。どのようにして船を引き上げたのですか。しかも小さなイッチャン一人で。絶対無理ですよ」
「絶対無理なことを難無く出来るのが儂ら魔術師なのじゃよ。疑問を解決しようなんてことを考えん方が良い」
「でも、ダメ男大先生にも話しましたが、昨日の朝、遭難して助けられるところが見えたんです。鎌イタチにあった時も未来が見えました。師匠ならご存知じゃないですか」
 勇太の質問にイデレブラは考え込んだ。別に考え込むほどのことではあるまい。少しくらいの予知能力なんて人間にもあるはずだ。災害を予知して逃げる動物たちがいることを例に挙げれば良いだけなのに、なんだか真剣に考えてる風だ。
「師匠、教えてください。お願いです」
 勇太が爺さんの肩を少し叩いた。左右に少し揺れた。眠っている。
「みなさんお疲れでしょう。隣に床を延べました。明日はびっくりするくらい素晴らしい朝焼けが見られるはずですので、早起きしてくださいね」
 その言葉を俺は待っていた。鬚爺さんをそのまま居間に残し客間での雑魚寝となった。少し狭いが寝るには十分だ。疲れていたのですぐに眠るこができた。
 目が醒めた。雨戸が全開になっている。素晴らしい眺めだ。夜中に来たから外の様子は分からなかったが、港とその外海の向こうに山がうっすらと見える。だんだん明るくなってきた。まだ太陽は水平線の下にある。黄金色に輝く朝焼けに綿雲がさらに輝きを増す。
「あなた早く上がってらっしゃい。すっごく綺麗」
 洋子が大きな声で言ってるのだが、どこに上がり口があるのか分からなかった。目をつむりエイと言った。俺は瞬間移動をした。そこは物干場だった。
 広い物干し場に全員が横一列になり弧を描く水平線を見つめている。神々しいとはこのことだ。誰も声を出さない。心が洗われる思いをみんな感じているのだろう。鬚爺さんも麗奈婆さんも、それにイッチャンも、神様なのにご来光を見てるなんて訳がわからない。洋子は清々しい顔をしている。勇太は生きていることに感謝の念を表しているのか、微動だにしない。華子は涙ぐんでいた。兄が怪我をして全快したとたん遭難騒ぎだ。両親が亡くなってから必死に生きてきた二人にとっては思ってもみなかったことが次々と起こり、精神的にも参っていたが、生きていることの素晴らしさを実感しているように見える。
「やっぱりお天道様は有り難いものじゃ。こうして見ているだけで百年は寿命が伸びる」「そんなに伸びたら浦島太郎になってしまいますよ、師匠」
 華子が言った。
「儂自身、浦島太郎みたいなものじゃよ。そろそろ師匠を卒業したいものじゃが、ダメ男がまだ未熟じゃから、もう少し指南せねばならぬのじゃ。一人前になれば華子君と楽しく暮らせるのじゃが。しばらくは無理じゃな」 こう言ってイデレブラは大きく笑ったのだが、何かヘンだ。華子と楽しく暮らせる?、どういう意味だ。結婚でもしようとしているのか。けれどイッチャンはどうなんだろう。俺が鬚爺さんを睨むと、ニタッと笑った。
 昨日水揚げされた魚の刺身や亀の手のような具が入ってる味噌汁と、自家製の焼き海苔に隣のおばさんが持ってきた三種類の漬物までついた海の幸が一杯の朝食を楽しみ、改めて島の良さを知った俺達は、昼の定期便で帰ることにした。瞬間移動ならすぐだが、島から突然消えるわけにもいかない。家の外で暇な島民が世間話をしながら俺達が出てくるのを待っているみたいだ。仕方ない。貨客船で帰ることになった。
 島の人達から沢山のお土産をいただき、そしてにこやかな顔に見送られ出航となった。イッチャンは漁船を操縦したのが面白かったのだろう。船長の後ろにずっと陣取り、貨客船の操縦の仕方を見ている。あと三分もしたら『操縦させて』と言うに決まってる。
「師匠、今朝言ったことを覚えていますか。華子さんと何かあるんですか」
 一緒に帰ることになった横にいる華子を呼び捨てにするわけにはいかないし、果たして華子が鬚爺さんの正体を知っているかどうかも分からないから、俺は丁寧に尋ねた。
「そのことか。ダメ男先生は何か勘違いをしているようじゃ。華子君、説明してやりなさい」
「分かりました、師匠。『夢の国』のことですね」
 バッグから分厚いファイルを取り出した華子は、それを俺に見せて説明した。
 ファイルの表紙には「八十歳になっても働ける元気村構想」と書いてある。
「師匠はいつも動け、働け、って言ってるでしょ。サラリーマンが六十歳を過ぎて退職すれば、多くの人達は何もすることがなく過ごしているのが、やりきれないんです。歳を重ねても精一杯働けるところがあれば、もっと充実した残りの人生を送ることができるはずだと。ね、師匠」
 こう言って華子は内容をかいつまんで話した。なるほどと俺は思った

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