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zoom RSS 隠し神 その2

<<   作成日時 : 2017/05/30 08:51   >>

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「ダメ男、時間を取らせて悪かったな。探していたキャップじゃ。ほれ、返したぞ」
「お前は誰だ。どうして失くしたキャップのことを知っているんだ」
「ダメ男、儂は隠し神じゃ。お前は一日中ボケッとしているからちょっと懲らしめてやったのじゃ。今日みたいに人間は身体を動かすのが一番じゃからな。仕事が少なくても身体だけは動かせ。そうすればどんな時にも対処できるからな。頑張れよ」
「ありがとうございます、って言いたいところだが、さっきから聞いてるとダメ男、ダメ男とどうして言うんだ。俺にはちゃんとした名前があるんだぞ」
「ダメ男だからダメ男なんじゃ。名前を呼んでほしかったら一所懸命働くことじゃ。じゃあな。アバヨ」
 体が冷えて目覚めた。ヘンな夢を見てしまった。立ち飲み屋にでも寄って、一杯キュッとやらなければ風邪を引いてしまう。足はだるいが酒を飲むと決めたから元気になった。 この辺りにあったはずだ。疲れた左足を少し引きずりながら探した。あった。清酒を熱燗で注文した。コップに口を持って行き、そのまま啜った。胃にしみわたる。五ミリくらい減ったところで受け皿を外し、溢れている酒を飲んだ。少しぬるくなっているが、量は多かった。残りの酒を湯豆腐をあてにチビチビとやった。体が暖まり、いい気持ちだ。
 五百円玉を出すと二十円が返ってきた。このまま帰るのも芸が無い。久しぶりに駅前のパブへ行くことにした。休みでも営業しているからだ。カラオケで歌いまくった。もう最終電車は出たころだろう。それでも歌った。
「こら、ダメ男。いつまで飲むつもりじゃ。身体を動かせとは言ったが、酒を浴びるほど飲めとは言ってないぞ。そんなに飲んでいるとまた物がどこかえ消えてしまうぞ。いいかげんにせんかい」
 ハッとして目を醒ました。隠し神がまた現われた。俺は自宅で寝ているではないか。どのようにして帰宅したか覚えがない。
 布団から出ようとしたら何かを踏んんづけた。枕の側にキャップがあった。どうも枕と枕カバーの間に挟まっていたようだ。あの隠し神が言ったことは当っていた。ほんとうにキャップが帰ってきた。あの時、枕も調べたはずだったのに見つけられなかった。夢でみたことが現実となった。何かのお告げなのかも知れない。
 俺は考えた。本当に隠し神なんかいるのだろうかと。単に牛乳のキャップは小さくて枕カバーのなかに挟まっていたことに気づかなかっただけなんだ。リモコンの時も手袋の時も、すぐに見つかったではないか。ただ他のことに気を取られていただけなんだ。夢でしか現われないし、隠し神の顔なんて目覚めたら分からなくなっている。キャップを探したいという深層心理があり、それが神となっただけなのだ。馬鹿馬鹿しい。
 電話が鳴った。受話器を耳に当てるといきなり怒鳴り声が聞こえた。クライアントが納品がないので怒っているのだ。俺は壁に貼ってあるカレンダーを見た。日付の下のスケジュール欄には何も書いてない。注文を受けた日時も調べてみた。どこにも書いてない。どのような仕事だったか全く記憶にないのだ。恐る恐るクライアントに内容を聞いてみた。注文票か何かだろうか、紙を繰る音が聞こえてくる。暫くして返答があった。「ごめん、あんたところへは出してなかった。また頼むから」 ガチャン。一方的に切られた。
 なんてことだ。あの言い草は何だ。間違ってかけてきたのだから恐縮していることを伝えるために低姿勢な物言いってのがあるだろうが。それにこっちが嫌味の一つも言えなかったのが癪だった。
 ああ疲れた。昨日の飲み過ぎがまだ堪えているようだ。暫く横になって目を瞑った。
「よお、ダメ男。ふて寝かい。あれだけ飲んだんだから、頭の回転も鈍くなるわけじゃ。自分がどうして家に辿り着いたかも理解していないし、何かが失くなっていることにもまだ気づいていないようじゃな。本当にバカだな、ダメ男は」
 隠し神がまた現われた。何かが失くなっていると言う。俺は慌てた。すぐさま起き上がり心当たりのところを探した。手帳のカードポケットに入れてあるお金のことを。いざという時のために小さく四つに折畳んだ一万円札が消えている。タクシー代として払ったってことか。記憶にもないが、お金もない。
 しかし、このところ横になり少し目を瞑れば隠し神が現われる。どうしてだろう。さっきで三回目だ。これだけ続けて現われると、あながち夢の続きでもなさそうだ。それに少しだけだが隠し神の容貌が分かったような気がする。南画か水墨画かは知らないが、中国の昔の絵にに出てくる仙人のような爺さんみたいだ。鬚がやけに長かった。
 俺は、また考えた。隠し神が本当に居るとしても、何を目的に夢の中に出てくるのだろうか。牛乳のキャップの在り処を教えてくれたことは良いんだが、隠し神だから、キャップを隠したのが隠し神だったらシャレにならない。後で教えるなら最初からそんなことをしなくてもいいではないか。まるで俺と遊んでいるようにも思える。あの鬚爺さんは俺に何をしたいんだ。けれども俺自身、このごろ物忘れがひどくなっている。隠し神が忘れていたことを教えてくれるなら、これからはもっと上手に付き合うべきかも知れない。いや待てよ。今は横になり目を瞑っていると現われるが、横にならなくても目を瞑っただけで現われ、思い出せないことを教えてくれるのなら、それはそれで素晴らしいことだ。色々と利用方法がある。うまくすれば大金持ちになれるかも。あ、もう止そう。どこかで聞いていれば大変だ。隠すばかりで教えてくれなくなる。ここは知らんぷりをしていよう。

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