究極の完全犯罪 その4

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 俺は勝手に軽い火傷だろうと考えたが、あいつはどこを怪我したのだろうか。車椅子に乗って一階でタバコを喫っていた。だからこそ軽い怪我だろうとは思っていたが、何処を怪我したのか分からなかった。クソッ。もう昼食の時間になっている。塚田は必ず食後、さっきのようにまたタバコを吸いに一階に降りてくるだろう。どうする。昼からはクライアントのご機嫌伺いがあるだけだから、時間をずらしてもらおう。担当は偏屈な人だが、きっちりしていれば、変更なんかがあっても文句は言わない人だ。
 近くの飯屋でカレーライスを急いで食べ、病院へとってかえした。
 いたいた。やっぱり朝のメンバーだ。出入りが多く、さすがに大ぴらにはタバコは吸えないのか、植栽の後ろに隠れて吸っている。向こうは隠れているからこっちのことは分からない。俺は病院の外に回り、目印にしておいた木の下辺りで立ち止まり、鞄から水のボトルを出してちびちび飲むふりをした。細い道には人通りがなく、塚田たちが話している声がはっきり聞こえてくる。
「………ところで、あのメーカーから貰った見舞金は北本にも渡すのかい。俺の時は集金に来やがった。守銭奴だよ、全く」
「金の臭いを嗅ぎ付ける天才だよ。仕方ないから一枚渡すけど、来週退院して会社へ戻ればまたやってきて、保険金の二割を持って行くだろう。会社になんか二度と来てほしくはないんだが、無理矢理用事を作って来るはずだ」
「それで終わればいいけど、あいつはしつこいぞ」
 別の奴が言った。
「見ろ。噂をすれば何とやらだ。向こうから近づいて来たじゃないか。さっそく来やがった。塚田、お前から向こうへ行け。1枚渡せばすぐに帰るはずだ。一緒にいるところを見られたら、また何かやらされるような悪い予感がする。早くおまえから会いに行け」
 キーキーという音がした。
 たぶん塚田以外の二人は別なところへ急いで逃げたようだ。おもしろくなってきたぞ。
「よう、塚田、みんなで俺の噂でもしていたんじゃないか。その顔をみればアタリだろ。ま、いいや。午前中に俺と同じ会社の奴が来ただろ。早く出せよ」
「病室に置いてあるよ」
「そうかな、ここに突っ込んでるんだろ」
 それから数秒ガサガサしているような感じがした。それは北本が塚田のジャージのポケットや、膝の上に置いたポーチを探り見舞袋を探している音だったのだ。
「嘘はいけないよ。嘘をつくから余計に巻き上げられるんだよ」
 バタンと何かが倒れた音がした。俺は中腰になり植栽の枝がない下から塚田のあたりを見た。車椅子が倒れていた。塚田は立ち上がれないようだ。
 どうする。助けに行こうか。今出て行くと北本と鉢合わせだ。それでも気になったので辺りを見回しながら塚田のところへ行った。
 そこには倒れた車椅子と、その下になった塚田だけがいた。自力では立ち上がれないようなので手を貸してあげた。
「あ、見舞金の吉田さん。ありがとうございます」
「大丈夫ですか。この袋、どうなさいます」
 俺は中身だけ抜いて捨ててあった見舞袋を見せた。塚田は奪い取り、中に指を突っ込んだ。入っているわけがないだろ。北本が全額かすめ取ったのだ。そんなの知ってるクセに慌てている。
「病室まで送って行くよ」
 俺が申し出ても塚田は苦虫を噛み潰したような顔で断わった。
 さぞや腹立たしいことだろう。1枚取られても2枚は自分のものになったのに、結局総取りされてしまった。俺に言わせれば自業自得じゃないかと思う。けれども笑う気にはなれない。いや俺の腹の中も煮えくりかえっている。あれじゃ、まるで強盗だ。北本は一般人と見るべきでないことを思い知らされた。
 塚田が送られることを断わったので、俺は北本を追いかけることにした。あいつがここから離れて5、6分だ。まだ近くにいるだろう。クルマで来たはずはない。営業車はまだ割り当てられていないし、タクシーを使って帰ったことも考えられるが、先ほどのことを思うと、そんな金を使うようなことは絶対にしないだろう。北本が塚田から見舞金を巻き上げた後の行動を俺は考えた。
 午前中の話ではここの理事長の息子とつるんでいるとのことだから、そのガキのところで油を売っているのかも知れない。事務室はどこにあるのだろうか。病院の案内図を見ると1階の突き当たりだ。この時間にあそこへは行かないだろうと思った。仕方ない、訪問を遅らせた会社へ行くことにした。

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