ク マ その5

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 クマが熊に襲いかかるなんてことは思ってもいなかった。腹を空かした臆病な野良犬だったので、こんな行動に出るなんて驚きだ。やっぱり餌をやったからだろうか。恩を忘れない動物が犬なのだ。だからこそ犬は人間になついていろいろな仕事をこなすことができるのだ。もっとも信頼のおける動物パートナーであることがよく分かる。
 そんなことはどうでもいい。あんなでっかい熊には歯がたたないと咄嗟に思った。しかしうまく尻尾に咬みついた。その状態でなかなか離さないクマである。ずっと回り続けている。ようやく咬みつくのを止めた。二匹ともヘトヘトになっている。クマの作戦勝ちのようだ。二匹が小さく吠えあっている。クマと熊とが話をしてるみたいだが、人間には分からない。いわば和平交渉みたいなものをしているように見える。不思議な光景だ。
 あ、また野良犬のことを考えてしまった。もうとっくに帳はおりている。早く帰らなければ、と思った。月明かりはあるが、心細さは増すばかりだ。別の野良犬グループが襲ってくるかも知れない。腹もペコペコだ。早く帰って晩御飯を食べなきゃ。
 野良犬達の横を静かに、しかも早足ですり抜けた。でっかい熊がちょっとこっちに目を向けたが、すぐにクマの方を向いて話の続きをしている。もう人間に襲いかかろうなんてことは考えていないようだ。よほど込み入った話しなのだろうか。熊の手下みたいな小さな二匹は何も言わずじっと二匹に顔を向けたままだ。
 時計を見た。あの坂を下っていたときからちょうど一時間半が過ぎていた。ああ、とんだジョギング始めとなってしまった。

 私は葛のおい茂った木の下にあるいつもの寝ぐらで目を醒ましました。昨日はいろいろなことがあったので疲れていたのでしょか、外へ出たらもうお日さまがずいぶん上がっていました。朝飯を探さなければと思い、急いで公園のベンチまで駆けました。内心、食べ物はもうないだろう、と思ってました。
 予想に反して、目立たないところに食べ物がたくさん置いてありました。いつものオバサンが置いたのではないことくらいすぐに分かりました。ちょっと警戒しなければなりません。昨夜の出来事をどこからか見ていて、でっかい野良犬が人を襲いそうだから殺してしまおう、なんてことを考える人間がいるかも知れませんから。
 私は用心深く食べ物の臭いを嗅ぎました。おや、この臭いは…… 確か昨日嗅いだ覚えのあるスルメとピーナッツの匂いが微かですがするのです。食べ物からではなく辺りに漂っているのです。あのオッサンが持って来たのでしょうか。
 毒なんかは入っていないようです。もう他の犬は来ないので、好きな食べ物だけを食べることにしました。ゆっくりゆっくり少しづつ味わいながら食べているとボスとその仲間達がやってきました。私はちょっと警戒しながら食べていたのですが、手出しをする様子はありません。
 ボスが言うには朝早くにあのオッサンがやってきてコンビニの廃棄処分になるお弁当を置いて行き、すぐに帰ったらしいとのこと。
 私は、やっぱりあのオッサンは変人だと思いました。

※※ aliceさんコメントありがとう!

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