隠し神 第3部 No33 次回最終回

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 紘子君と樋口刑事が結婚すれば、俺は裕一郎の義兄となる。年下なのに兄だなんて納得がいかない。樋口刑事だって年下の兄ができるのだ。世間ではこんなことも起こりうるけれど、やっぱりしっくりこない。
「ダメ兄ちゃん。洋子お姉ちゃんがいつも言ってるけど、あんまりどうでもよいことを考えない方がいいよ。樋口のおじさんは、さっぱりしているし、猪突猛進型だから、ダメ兄ちゃんをお兄さんと思ったら、それ意外に考えないよ、魔術師として尊敬もしているようだし。ね、いいでしょ、お兄ちゃんで」
 イッチャンは俺の心を読んで言った。
「イッチャンの言うとおりだね。そうするけれど、どんないきさつで樋口刑事を紹介するようになったんだい。それの方が俺には興味がある」
「あのね。樋口刑事は洋子姉ちゃんみたいなタイプが好きなんだ。ポスターの写真を撮ってた時に言ってた。それでね、洋子姉ちゃんのお母さんに話したらこんな風になっちゃったんだ」
「洋子のお母さんと、いつ会ったんだ」
「時々会うよ。父ちゃんも。ね」とイッチャンは俺の後ろあたりに目をやって言った。
 やっぱり田中家は神様と強く結ばれているのだ。洋子がそのことを知ったのはここ数日前のことだが、そんなシステムでご両親も動いている。
「智充さん、その通りよ。我が田中家の宿命かも知れないわね。でも、みんなが幸せになってくれるように働くことは素晴らしいことだと思わない? あなたも洋子と一緒にこれから働いてもらわなくちゃ」
 紘子君と樋口刑事はこの旅館を継いで、神様との橋渡しをするために頑張るのだろう。
 樋口刑事はおいおいそのことを知り、洋子の両親みたいに世界を回ることになるのか。それじゃ俺と洋子はどうすれば良いのだ。
 俺が洋子を知ったのはイッチャンと入った喫茶店だった。そのとき喫茶店を経営していたのは洋子の叔母だった。その叔母さんて、ここに来ているのだろうか。どうも田中家の関係者すべてが此処に出席しているのではなさそうだ。それぞれいろいろ役目を担って各地で活躍しているのかも知れない。
 紘子君と裕一郎君との子供が田中屋の後継ぎになるのだが、たぶん双児の妹の方が後を継ぎ、洋子と同じように姉が俺のような相手を見つけて次の世代に進んで行くのだろう。
「その通りだ智充君。紘子と裕一郎君との次女が後継ぎになるだろう。そして長女は洋子と同じように世界に羽ばたくんだ。新しい世界で伸び伸びと生き、みんなのために頑張ってくれ」
「そうするけれど、叔母さんは今ここにいらっしゃるのですか。あの喫茶店の叔母さんです」
「あれはオバさんだけど、洋子が間違ってたんだ。本当は伯母さんなんだ。まったく母さんと同じ顔なんで、うちの母さんの方が気が強いから、姉を叔母さんだとずっと思っているんだ。たぶん今でも」
 洋子は自分の母が姉か妹かまだ完全に把握していないらしい。
「何よ、あなた。だってそうでしょ。双児の場合、姉と妹なんて、本当のところ間違ってしまうじゃない。現代では先に生まれたのが姉で後が妹、でも一昔前では後の方が姉だったのよ。どっちでもいいでしょ。便宜上のものだから」
 姉でも妹でも関係ないことなのだ。生まれた頃、お風呂に一緒に入れれば、どっちが姉か妹か分からなくなってしまう。はっきり体の表面上で区別できるまでは、名前を取り違えていることだってあるからだと、持論を言う洋子だった。
「それで伯母さんはどこなんだ」
「いるじゃない、お爺ちゃんの横でビールを飲んでいるよ」
 俺は、じっくりイデレブラの横の婦人を見た。森川首相夫人だ。
「違うじゃないか。お義母さんとも全然似てないよ」
「誰を見ているの、お爺ちゃんの横よ」
「だから見てるじゃないか。あ、こっちを見てるよ」
 森川夫人は俺の視線を感じてこっちを向いて頭を軽く下げ微笑んだ。
「馬鹿ね。あっちじゃなくてこっちの列のお爺ちゃんの横よ」
 ルーガブラの横にいる女性に目をやった。そっくりだ。喫茶店で一度見たきりで覚えはないが、洋子のお母さんと全く同じだ。
「お久しぶりです。おめでとうございます。あの時以来ですね。私も一安心ですわ」
 やっぱり伯母さんの言葉が勝手に聞こえてくる。みんな神様なのだ。
「違いますよ。聞こえてくるのはサトルさんが、興味を抱いた人の心を読んでいるからなのよ。私の思ってることを知りたいからですよ。古代には人間ならみんなできていたことなんだけど、現代はほんの一握の人だけしかできなくなったの。私たちはサトルさんみたいにはできないのよ。あなたは特別なんですから。洋子を幸せにしてくださいね」
 伯母さんは姪である洋子の幸せを真に願って、俺に洋子を託している。神様や有名人にかこまれて、ちょっとてれくさく思っていたが、与えられた使命は、なんだか途方もなく大きいように感じた。

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