隠し神 第3部 No32

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「私は奇ッ怪島への旅行のとき、ヨッチャンに教えてもらったの。お父さんの書斎にある千手観音のこともよ。父さんや母さんは娘の私達が元気で幸せでいてほしいだけなの。そのために神様の手助けをしているだけ。これが分かったから、すぐに元締もわかったよ」
「そうだったのか。でもどうして洋子がお嬢なんだ。洋子が総理大臣より上だなんて、傑作だよな」
「前の総理大臣は勝手なことばかりをしていて、神様達が頭にきたのよ。それで森ちゃんが頑張ってなったのよ。あ、森ちゃんは、私の小さい時の遊び相手になってくれたお兄さんだったの。あなたも知ってるでしょ、板長の柾さんの息子さん」
 俺はだんだん真相が分かってきた。田中家のことの。江戸時代から旅館業をしているのは、真にこの国を良くしたい人が集まる場として連綿と続いているのであって、私利私欲だけで出世しようなんて考える客は、自然と遠ざかるようになっているのだろう。そんな風に思ってもう一度テーブルに目をやった。
 いた。元締だ。本当だ、全員が元締だ。
 どうしてこんな簡単なことが今までわからなかったのだろうか。神の元締であるから一人、いや一神か数神くらいと勝手に解釈していた。だが違った。元締は神様の総意だったのだ。ここにいる総べての人から後光がさしている。俺と洋子の結婚を心底祝ってくれている。みんな暖かい光だ。その一つ一つをよく見ると眉間の間や口からも出ている。それぞれの人により、出てくるところが違っているみたいだ。
「やっと理解してくれたな、ダメ男。いや智充(さとる)。もうダメ男って言葉は誰も言わないだろう。ちゃんと本当の名を呼んでくれるぞ。よかったな」
 イデレブラがさも偉そうに言った。みんな笑っている。
「それじゃ紘嬢のフィアンセになる方を紹介いたしましょう。庭で孔雀と遊んでます。ご覧ください」
 森川総理が自前の大声で言った。義妹はポカンとして自分のことだとは思っていない様子だ。俺もどんな男が紘子君の旦那になるのか興味があった。
「智充君やイッチャンも良く知っている人物だよ。君より少し年上だが、なかなか見どころのある男だと奥さんは見ている」
 義母が気に入ったのか、どんな奴かな、と思い俺は高砂の席を外した。もう洋子との披露宴は総理大臣のヘソ踊りで終わっている。元締の正体も分かった。そしてサプライズが紘子君の婚約者発表と、なんだか絵に描いたような進行の仕方だ。
「さすが洋子の婿殿ですね。そうなのよ、おめでたいことは重なった方が良いでしょ。ここへ来てくださった方々はお忙しい日々をおくってらっしゃるし、ちょうどよかったんです。ね、あなた」
「そうですね、母さん。森川さんもそう思うでしょ」
「私はお嬢たちのためなら、二、三日くらいいつでも都合をつけますよ。他の参加者もそのように思っていますから気遣いは御無用にね」
「首相からそんな風におっしゃっていただければ田中屋の旅館冥利に尽きます。ありがとうございます」
 そんなおべんちゃらのようなこそばゆい言葉を聞きながら俺は庭に出た。
「よお、久しぶり」
 紘子君のお相手がこっちを向き、気さくに喋った。俺としては総理大臣の出席より驚いた。樋口刑事だ。
「どうして……」
 俺には想像すらしなかった出来事だ。いつのまに樋口刑事を紘子君の相手にしたのだろうか。樋口刑事のことを知っているのはイッチャンたち神様と洋子だけだ。もう一人、華子君が知っているが、あの頃のことは記憶喪失になっているはずだし、誰がお膳立てをしたのだろうか。
「イッチャンだよ。イッチャンが洋子君のお母さんと相談して俺を選んだみたいだよ」
 そんなことを言って樋口刑事はニコッと笑った。
 選んだイッチャンはヨッチャンと二人、庭で孔雀を追い回している。
 どうしてイッチャンが樋口裕一郎を洋子の母に紹介したのか、そんなの成り行きだから仕方ないこととして、大きな問題というか、ちょっとおかしなことが現実として起こってくることがわかった。

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