隠し神 第3部 No.29

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 針金のように細い俺の分身は宝石珊瑚を掴んだ。しかしすぐに離すはめになってしまった。凄い熱が伝わってきた。
『馬鹿め。お前が宝石珊瑚に目をつけたことくらいお見通しだ。針金のような右腕が無くなったぞ。次は全部溶けてしまい、上の階層の実体もやがて消失する。もう私に手出しは出来ぬ』
 得意げにヘルヘイト言った。が、次にウワァーという大きな声が聞こえ、それから沈黙が支配した。
「どうだ、ヘルヘイト。もう三秒前の世界へは戻れないぞ。ここは三階層上の世界ではない。神様が初めて経験する四階層も上の世界なのだ。絶対に戻れない」
『何故だ、どうして私がそんな上位の世界へ飛ばされたのだ。ダメ男、トリックを使ったな。目くらましで私を騙し、他の神達が全員普通に動くことができてから、私を葬り去ろうとしているに違いない。そうしか考えられない。騙されないぞ』
 神として初めての世界にいるヘルヘイトなのだが、三階層上にいる時と風景が変らないから信じることができないでいる。
「三階層と四階層の違いを教えてやろう、ヘルヘイト。俺は話し終えたら元の世界に戻るのだから、もう生きているものの声を聞くのは最後だぞ」
『ふん、騙そうとしても無駄だ。お前を完全に燃やし尽くしてくれる』
 腕が溶けた針金のような俺を溶岩つぶてが取り囲み、凝縮するや燃え上がった。そして跡形もなく文字どおり消えてしまった。
「気が済んだか、ヘルヘイト。俺は燃えも消滅もしていないぞ。さ、これからこの四階層上の世界の怖さを知り、そして消滅するがいい」
 ヘルヘイトはうめきもしなかった。そして消滅した。どうし自分が消えてしまったかも知らないままに。それはヘルヘイトとしてもある意味で幸せな最後だったと思う。俺はみんなのいる世界へ戻った。
 まず神様たちはどうしているのか気になった。奇ッ怪島の甲板に降りると、そこに洋子が立っていた。
「あなた、どうだった。悪い神をやっつけることができたみたいだけど、以前みたいに疲れていないじゃない」
 どうしてここに居るのか分からないが、またいろいろ聞きたがる洋子だ。
 しかたなく説明することにした。
「そうそう疲れてばかりじゃたまらないよ。俺だって学習するさ。これまでは頭で考えて全身を使って瞬間移動していたようなものだが、千手観音を操っていてわかったことを応用すればもっと簡単にできることを知ったんだ。簡単だから体力も消耗しないんだ」
 最初、千手観音を飛ばすには全身で方向や速さを表していたのだが、だんだん慣れてきたら、こうしたい、ああしたいと考えていることが即座に千手観音に伝わり、思うように動かすことができた。千手観音にモニターみたいなのがあるってことが、そもそも俺としては不思議だった。まるで俺は宇宙飛行士で宇宙船を操縦しているのと同じだと思った。こう考えると千手観音で階層を移動することはイデレブラに訓練してもらった階層移動と元締と一緒に三階層上まで千手観音で行ったこととは同じではないかと考えた。つまり乗り物に乗っていようがいまいが、精神があらゆる世界へ移動するには乗り物は関係ないのだ。
 四階層上への移動は、神様もこれまで行くことのなかった階層であり、まったく初めての試みだった。けれども俺は確信していた。元締でも時間の遡行はできないとしていたけれど、華子を人間に戻すために時を戻したいと思った。それは実現して今も生まれ故郷であり、兄の勇太が漁師をしている椎の実島で暮らしている。そして今度は島の鼻曲がりの岬の先までウリボーたちがやってきた。不思議な巡り合わせだ。
 四階層上の世界は三階層上の世界と変ることはない、不毛の世界ではあるが、全く違うことは生物が存在することを拒否する世界なのだ。四階層へ行くことは、たぶん神様たちも可能ではあるが、そこに留まることは至難の技だ。数秒経過すると生き物はバラバラになり、無機物に変化してしまう。端的に言えば人はもとより生き物はすべて死んでしまうのだ。炭素化合物である細胞が分子や原子レベルまで分解されてしまう。
 そんな世界にヘルヘイトを飛ばしたのだから、ヘルヘイトは全く考える暇もなく、死んでしまい無機物になってしまった。

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