アンコール小説 親愛なる者  その5

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 由加と夕子は翌日銀行の本店で当籤金を支払ってもらうために手続きをしていた。一時間後銀行を出ようとした時、勇太が入ってきた。三人は顔を見合わせた。
 勇太が言った。
「もうお金はもらったのか」
 その言葉を聞き、由加も夕子も心臓が止まるかと思った。
「何のことよ」と夕子が聞き返した。
「だから、雄介が当った宝クジのことだよ」
「そんなの知らないわよ。二人でお買い物をしようと思って出かけてきたの。ここでお金を下ろしただけだわ。兄さんは何の用事?」
 由加はとぼけ、反対に勇太がどうして来たのかを探ろうとした。聞かれた勇太は返答に困った。雄介の宝クジが今日妹達により換金されることを夢で知ったなどと言えるはずもない。咄嗟に勇太は「宝クジに当ったから換えに来た」と言った。
「え、いくら当ったの。千万、それともジャンボの一等、それだったら凄いわよ。私たちにもお裾分けしてちょうだい」
「そんな高額に当籤するはずないよ。換金はまたにする。それじゃ」
 勇太はそそくさと回れ右をして自動扉の方へ向かった。
「待ってよ。お茶でもしましょうよ」
 勇太はそれを無視して出ていった。
「どうして分かったのかしら。由加姉さんが喋ったのと違う?」
「昨日の今日よ。どうしてかしら。私たちの後をついてきたのかしら。不思議ね」
「どっちにしろ何か知ってるわね。絶対喋らないでね。当分あまり派手にお金を使わないようにしましょ」
「天の邪鬼さん、また教えたんでしょ。兄さんは銀行の角で姉さん達を見張ってるよ」
「まるで守銭奴だ、雄介さんのお兄さんは。あの数字のクジは雄介さんが買ってお兄さんにも渡したんだよね。お兄さんは雄介さんが入院してる時に換金した後、そのことを忘れてたんだ。私が当ってることを教えてあげたから、姉妹がアパートで整理をした後に電話をしたんだ。そして今日お姉さん達が換金しようとした。それを待ち構えてた、という分け。もう自分のものにはならないのにね」
 そうだった。兄に借金した時、ちょうど前に宝クジの売り場があったんだ。そこで運試しみたいに同じ数字のを二枚買い、一枚兄に渡した。だから兄も同じ額だけ手に入れている。それなのにまだ欲しいのか。雄介はちょっとがっかりした。入院費用の千万円なんて兄一人で支払うことができたのだ。
「ちょっとムキになってるね、雄介さん。お姉さん達が二人で山分けをしても、どうにも思わなかったことが、兄のことになるとやっぱり嫌なんだよね。あなたがあげたクジだものね。兄姉で使って欲しかったんだ」
 天の邪鬼はどんどん雄介を追い込む。兄姉の嫌な面を見せつけ、それぞれの思考にまで立ち入らせようとやっきになっている。
「兄には兄の考えがあると思うよ。それを知ることはできるけれど、そんなことをしていたら死んだ意味がないよ。こうして見ていたらハラハラするけど、何だか映画を観ているようだね。天の邪鬼さんは人の思考の中に入り込んで行動をコントロールすることができるみたいだけど、僕にはそこまでしようとは思わないよ」
「あ、お姉さん達はホテルで食事をするようですね。ランチのコースですよ。やっぱり泡銭を持つと気が大きくなるんですね。さっきの約束なんて忘れてる。料理が来ましたよ。あれだったら五千円くらいするよ。お兄さんも食べたそうだよ。ロビーから様子を見ているだけだけれど」
 姉妹は時間をかけ、ゆっくり食事をしていた。兄の勇太は妹達が雄介の宝クジを換金したことを確信した。
『やはり千七百万円を手に入れたんだ。その金がなかったらホテルでランチなんか不可能だ。今まで持ち出しばかりだったのに。雄介の遺したものだから、俺にもいただく権利がある。法事の時に問い詰めてみよう。だけど否定するだろうな。正直に言うわけがない』
 ホテルを出て歩きながらそんなことばかり考えていた勇太に名案が浮かんだ。由加も夕子も旦那には内緒にしているはず。今日の昼食のことやデパートでの買い物のことを旦那に告げ口をすれば喧嘩になること間違いなしだ。由加の旦那はしがないサラリーマン。月の小遣いが二万円とこぼしていた。夕子の旦那も似たり寄ったりで、ひょっとすると小遣いなんて貰っていないかも。そんな義弟たちが、妻が何百万円ものヘソクリをしていると知ったらどうなるだろう。修羅場となり、相談にやってきて、ことの顛末が明かされるようになる。
 そんな期待を持って勇太は家に帰ってから義弟に電話をするのだった。

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