究極の完全犯罪 その28

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 スキンヘッドの小林勇祐と遥、それに幽霊タウンのお姉さんと空き缶回収業、全てが繋がっていた。お姉さんたちは北本たちの疾風を排除しようと躍起になっていたところに俺がやって来たのだ。疾風の幹部らしき北本の行動を探っていたのだからラッキーと思ったことだろう。俺も小林一家の協力で北本の手足を、もぎ取ることもできた。けれども相手も手を拱ねいていた訳ではない。文字どおり自分を殺してまでも組織の拡大と自分の生きる道を作ったのだ。その手強さが骨身に滲みて分かる思いがした。
 メールのことをすっかり忘れていた。洋一からだ。内容はハヤテが村に入ろうとしたのだが、洋一と爺さんたちが村の入り口で野焼きをしたため、消防や警察が待機していた。そこへハヤテがやってきたのだから、警察が整備不良の名目で乗用車二台と単車五台を検挙した。その時に慌てたメンバーが電話をかけようとしたのを爺ちゃんが取り上げ、組合の職員に電話番号をコピーさせた、と書いてあった。
 整備不良くらいだったらすぐに釈放されるが、村から警察署までは車で1時間10分もかかる。いろいろ調べられるだろうから、北本に連絡が入るのは早くて今夜であり、刃物などを携帯していたなら、二、三日は泊められるだろう。この間に北本の居所を突き止めなければならない。
 朝になった。俺はお姉さんの長屋の近くまで歩き周辺を見た。以前からの風景だ。そして家の前に来た。段ボールの箱の中で何かがピカピカ光っている。取り出すと、それはおもちゃみたいなペンライトが点滅していて、その下にメモがあった。
『吉田君。北本の居場所は、たぶんH病院の従業員寮だ。住所はここに書いておいたが、北本も副事務長も居るところは誰も確認していない。もちろん雲隠れ中の理事長もだ。しかし病院の理事会が4日後に開かれる。理事長はそこで病院を売り払うつもりだ。それまでに副事務長が替玉であったことを白日の下に曝さなければならない』
 時間がない。病院が売られてしまえば、あの悪人共は日本から脱出してしまう。それまでになんとかしなければならない。

 H病院の従業員寮は病院に隣接しているが敷地の外にある。マンションと見紛うくらいの立派なものだ。
 しかし寮の周囲は戸建てが取り囲み、張り込むこともできない。昨日の小林勇祐のガレージがあった住宅地と同じ感じだと思った。他の方法を考えなくてはならない。
 マンションのような寮を巡るように道路が通っているので、周囲の状況を確認し、張り込み方法を考えながら歩いていると、大きな警笛で心臓が止まりそうになった。狭い道を外国製の四輪駆動車がかなりのスピードで俺の横を通り過ぎたからだ。クソッと毒づいて車を目で追うと、マンションに隣接した平家に入った。
 おかしい。平家が駐車場になっている。俺は走ってその家の横からそっと車が入っているところをみた。
 なんだ。この家はハリボテじゃないか。中には部屋なんか一つもない。あ、男が出てくる。違う。戸を閉めにきたのだ。
 しばらく待ったが男は出てこなかった。俺はもしものことを考えて平家からは絶対に見えないようにして、その場を離れた。そしてまた寮を見た。ちょうど平家の正面にメーター室のような建物が建っている。ひょっとしたら平家とトンネルで繋がっているのではないかと思った。
 日が暮れた。寮のエントランスでは夜勤の看護士たちが出て行き、しばらくすると勤務を終えた看護士が帰ってきた。みんな疲れた顔をしている。ずいぶん粘ったが死んだはずの副事務長や北本を見ることはなかった。
 帰ろうとした時、病院の壁面側の下にあるドアが開き、そこからも看護士が出てきた。そしてフェンスの小さな扉を開けて寮に帰ってきた。あそこは遺体搬送用の出口だ。
 病院の遺体搬送口、寮、メーター室、ハリボテの平家。一直線上にある。
 俺はコンビニに行きトイレを借り、イートインでカレーライスを食べ、お茶のペットボトルを二本買い、さっき見張っていた場所より遠くの公園のベンチに座った。ここからでも寮の最上階が見える。明かりは四階まで点っているが、五階とペントハウスの六階は真っ暗だ。
 街路の灯りだけになってしまった。もう街は眠りについている。そんな静寂の中にバイクの爆音が近づいてきた。もうすぐこの辺りを通過するはずだと思って周囲を見た。爆音が消えた。


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