究極の完全犯罪 その30

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「危ない!」
 俺は声が出そうになった。それより早く背の高い男が突然倒れた。足に何か巻き付いている。ぶざまな倒れ方だ。顔面を道路で打つのは免れたが、たぶん手首を骨折しているだろう。一方、北本はすぐに取って返し、車に乗り込むや全速力で逃げるのだった。
 ぶざまな格好は道路に倒れた奴だけではなかった。俺もだ。車が去ったために、しゃがんでいた俺はそのままの格好を通りを行く人に見られることになった。
 しばらくしてサイレンが近づいてきた。どちらにしろ、ここから早く消えなければならない。走って逃げようとした時、思うように走れないことに初めて気づいた。後ろに手をやると血がついた。金もないからこのまま尻から血を流しながら帰るしかないのか。不様なものだ。
 昼過ぎに幽霊タウンに帰ることが出来た。南京錠を開けて入ろうとすると、お姉さんが声をかけてきた。
「吉田はん、なんで道の真ん中でお尻を押さえてしゃがみ込んでいたん? テレビに映ってたで」
 こう言って思いきり笑うのだった。北本が車を急発進させて逃げたところを誰かが撮影していたのだろう。ケイタイやスマホを持っていれば誰だって報道記者になれる。
「これでハヤテも終わりやな。捕まった若い者がペラペラ喋ったらH病院乗っ取り計画も頓挫してしまうで」
「お姉さんは何でも知っているんですね。それでもそう簡単には行きませんよ。車で逃げた北本はしたたかですから。それにあんなマスクをかぶって、誰だか分からない人物を特定することも無理ですから」
「そうかな、ハヤテはH病院理事長の武闘派やけど、息子の副事務長が生きていることが知れればそうはいかん。一蓮托生やから」
「そうなれば良いが、北本だけは俺がやっつけたい。あいつは心の底から腐っている。もちろん理事長も副事務長もだ。それにしてもあそこで理事を殴ろうとした奴がうまく転けたものだ。あの理事は運が良かった、あの巻き付いたものは何だったか、お姉さんは見たから知ってるでしょ」
「なんや、何も知らんかったんか。あれはクラッカーを改造したもんや。子供の玩具なんや。うちが作ってあげたものや」
「え、お姉さんが作ったもの? それじゃあれは誰が投げつけたの?」
 頭が混乱してきた。
「吉田はん、ハヤテは三人の理事に狙いをつけていたのは知ってるやろ。そやからうちの三人がそれぞれの家を警護していた訳や。ちゃんと理事の了解を得てからやけど」
「それじゃ、アメリカンクラッカーをぶつけたのはお姉さんの弟さん?」
「違う」
「じゃ、遥さん?」
「惜しいな。もうょと」
「もういないじゃないですか。小林勇祐さんは、あんなことはしないはずだし」
「そうやね。勇祐はあんなことはしないわ。自分の生活に直接関係ないし、面倒は厭なんだから。頼まれれば頑張るけれど」
 お姉さんの身内はもういない。あとは仲間の目蓋キズくらいしか思い当たらない。
「あの子ではないよ。空き缶回収は朝が勝負やで。あの子たちは本業を大切にして、余った時間に吉田さんみたいな人に協力してあげる訳や。それが充実した日々を送る秘訣やと私は信じてる」
 本業と手助け。それをモットーに生きる。出来そうで出来ないことだ。それを実践して日々頑張っているのがお姉さん一家なんだ。
「誰がクラッカーを投げようと、大した意味はないで。要はあれで理事長一派の野望が潰えることになるかも知れんのやから」
 猟奇的殺人まで起こして自分を消してしまった副事務長と、その親である理事長。それに加担している北本。H病院には俺たちが知らないもっと奥にある、人目には絶対に触れてはならない秘密があると推察できる。
「何自分で納得しているねん。いろいろ考えることはあるやろうが、逃げた北本か、まだ生きていて名前を変えている副事務長をとっ捕まえることや。単純なことやないか。ハヤテもこれだけ世間の注目を集めたら、おおっぴらに行動でけへん。請け合うで」
 お姉さんはこう言って豪快に笑った。

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