究極の完全犯罪 その22

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 洋一らの農業ボランティアから一月ほどが経った。お昼のニュースを見ながら昼ご飯を食べていると、H病院の副事務長が病院の駐車場の車の中で死んでいるのが見つかり、警察は殺人事件と断定して捜査していると報じた。中継のレポーターは、この事件が猟奇的な殺人のようで、以前にあったワンルームアパートの一室での殺人事件の状況とよく似ていると話していたが、いったいどのようなことが猟奇的なのか俺には分からないし、あの時も全く関心がなかった。殺され方なんて言葉は嫌いだ。良い殺され方なんてのはないし、いわんや悪い殺され方なんてのも、あってたまるか、と思う。
 塚田が殺されたのと同じ形で、あの理事長の息子が殺されたということだ。北本が絡んでいることは確かだが、疾風のトップだと思っていた男だ。畑仕事はちょっと休んでその辺りの関係を明らかにしなければならない。 ここまで徹底的に仲間まで抹殺する冷酷無比な北本だとしたら。その魔の手は岸谷小夜子にも確実に及ぶだろう。
「爺ちゃん。洋一君に会うにはどうしたらいいかな」
「そんなの、洋子に頼めばいいじゃないか」
「会いに農協に行ったけど、今日は休んでるんだ。田中の婆ちゃんも知らないんだ」
「そうか、仕方ないな。すぐに連絡くれるように言ってみる」
 爺ちゃんは有線放送の黒電話で何か話してすぐに切った。
 しばらくすると、その黒電話鳴った。爺ちゃんは電話に出た。すぐに切れた。また鳴った。
「出ろ」と言う。
 俺は出た。
「急用って何?」
 洋一からだ。どうなってるんだ。この有線の電話は。ま、いいや。爺ちゃんが連絡をとってくれたんだ。
「洋子さんが狙われるぞ。昼のニュース見ただろ。あいつらの行動は早いから」
「知ってます。岸谷さんも、もちろん狙われるってわけですね。洋子の素性は北本には分からないでしょう。岸谷さんとは仲の良い友人ですが、学校は全然違うから、分かるはずがないと思います。それよりタダシ兄イはどうするの。北本はもう本籍地くらい調べ上げているはずですから」
「農作業も一段落したことだし、しばらく旅に出るよ」
「わかりました。何かあれば連絡させてもらいます」
 電話が切れた。
 俺は爺ちゃんの顔を見た、爺ちゃんはちょっと寂しい顔をしてから笑った。ずっとここに居てほしい、と目が言っていた。
「田中んところの洋子は、村中の者が守るから安心せい。ここへは他所者が勝手に入ってくることなんてできないからのう」
 戦国時代から続く村だ。道も車が一台だけしか通れない。役場の職員もここへ来るのを敬遠する。崖から車が転落することもあるらしい。
「爺ちゃん、一月くらい街へ行って来る」
 爺ちゃんは無言だった。
 翌日の早朝、俺は村を離れた。朝の早い爺ちゃんが軽トラックで駅まで送ってくれた。
 夕方、サラリーマンが帰るころにクビになった会社の近くの喫茶店トレビで通りを見ていた。予感のようなものがあったからだ。前の営業三課の事務員が二人通り過ぎたが、すぐに引き返し、店に入ってきた。俺の後ろの席に座りケーキセットをたのみ、すぐ話しはじめた。
「どうしてあいつが課長になるのよ。もう頭にくる。吉田さんがクビになってからは、うちの課は無茶苦茶よ。営業成績はマイナスなのに」
「右肩下がりの会社なのにね。あれは社長と常務が会社を食いものにしているからよ。次の仕事を探したほうがいいかもね」
「え、まだ探してないの。私はね。次は車のディーラーに内定しているの。あんな奴の下で働くなんて絶対イヤ。今月でお終いよ。それを言っておきたかったの」
「じゃ、私もそうする」
 なんてことだ。北本が課長とは。世の中間違っている。

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