究極の完全犯罪 その20

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 ここへ来てからは他所者だけに注意した。十数戸の辺鄙な田舎で助かった。みんなが一族だから、見知らぬ人間が一歩でも入れば誰もが注目する。爺ちゃんは俺が戻ってきて嬉しがっているが、永い人生経験から何かがあると思っているのは確かだ。それを口に出すことはない。
 汗水垂らしての農作業は健康面はもちろん体力面でもかなりアップした。自転車で筋力は付いたが、農業ではスポーツでは絶対に使わない筋肉まで鍛えることができた。見た目はすんなりしてはいるが、芯から強くなったみたいだ。

 段々畑の作業を終えて家路につこうとしていたとき、遠く下に見える道路から大きな音が聞こえてきた。だんだん大きくなり、その音が単車のマフラーを改造したものとわかるまでになった時、暴走族の集団が現われた。疾風に違いない。やっぱり来た。どうしてここを突き止めたのだろうか。幽霊タウンのお姉さんを締め上げても絶対に分からない。スキンヘッドのホームレスも俺の素性は知らない。北本は自分と塚田、そしてビデオを撮った第三者の関係を分析し、消去法などで俺を導きだし、会社にある履歴書なんかで調べ上げたのだろうか。
 しかし爺ちゃんの住所なんて分かるはずがないのに、やっぱり裏社会の組織力だろう。仕方がない。このままでは畑を潰される恐れがある。逃げようかなと思案していたら、爺ちゃん言った。
「あのガキたちは田中んところの息子と仲間たちだ。音は五月蝿いが、明日の朝一から五時まで働くんだ。なかなかの硬派だよ」
 爆音を轟かせながら、こっちへ向かってきて、爺ちゃんの前で止まった。
「爺ちゃん。明日は南の畑だったね」
「そうだよ。よろしく頼むよ。今日は集会所で泊まれるように婆さんたちが用意しているはずだ。今夜は儂は参加できないが、うちの孫のタダシも飯には参加するからよろしく頼む」
 こう言って俺の脇を突ついた。仕方なしに個性的な若者達に向かって「よろしく」と言うと、「ウッス!」と返ってきた。
「爺ちゃん。集会所にあいつらが泊まって明日一日畑仕事のボランティアをするの?」
「そうじゃ。ワルそうに見えるが、バイクがやかましいだけで、みんな気の良い奴らなんじゃ。夕方行けばわかるよ」
 なんだか爺ちゃんは嬉しそうだ。

 あまり行きたくはなかったが、疾風でなかったことを感謝しなければならない。見た目は怖そうだが、爺ちゃんをはじめ村のみんなも有り難いと思ってる族みたいな若者と酒を飲むのも良い経験になるかも知れない。この隠れ里のようなド田舎のために二月に一回来てくるれるのだから、過疎の村にとってはこのうえもなく有り難いと、爺ちゃんは話してくれた。
 集会所へ行くと、田中の息子の洋一が俺を一番上座の真ん中に押し座らせた。ちょっとどぎまぎしていると「ハヤテに一人で立ち向っている本家の弟の爺ちゃんの孫だ」と紹介したが、他のみんなは何のことやら、といった感じで理解できない様子だ。俺だって先祖のことなんて全く分からない。
 洋一がどうして俺のことや疾風のことを知っているのか不思議だ。それでちょっと洋一を見ると、洋一は後で、という感じでビールのグラスをかかげた。
 酒盛りと夕食が終わると族たちは、早々と布団を敷いて高鼾となった。
「洋一君、どうして疾風のことや俺のことを知っているんだい。爺ちゃんも知らないんだよ」
「僕達の連絡網は凄いんだよ。警察の行動も手に取るように分かるんだ。特にハヤテの動きはすべて監視しているんだ。あいつらは僕達のテリトリーをどんどん侵し、仲間を本当のアウトローの世界へ引き込んでいるんだ」
「君達は音だけなんだね。留めてあるバイクは良いものだし、不正な改造はマフラーだけみたいだが? 一般的な族とはひと味違うんだね」
「みんな走り屋なんだ。排気音が大きいと早く気づいて避けてくれる。そうしたら事故も少なくなる。ま、自分勝手な理屈だと分っているけど、これが楽しいんだ」
「洋一君、俺のことを誰から知ったんだい。俺には親友って奴は一人だけだし。その親友も俺が何をしようとしているかは知らないんだよ」
「タダシ兄イのことは全部知ってるよ。全くの偶然からだけどね。その理由は今は言わないけど、すぐに分かるはずだよ。僕達がどこででも応援していると思ってくれていいよ」
「凄いんだね。洋一君たちの組織も」
「そんなこともないけど、たった独りでハヤテの頭の一人をやっつけようとしているのが応援する理由だけれど、ここに来ている仲間以外は、兄イの顔だって知らないから安心していいよ」
 洋一は族のリーダーって感じだが、話し方は優秀な大学生みたいだ。
「あ、もう一つ話しておかなきゃ。兄イ独りで頭をやっつけるのはちょっと無理だと思うんだ。あいつらには資金力があるからね。その筋の者にだって一目置かれているくらいだから、用心に越したことはないよ」
 こう言って洋一は笑った。

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