究極の完全犯罪 その15

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 北本の調査のついでに課長の家のことも探ろうと思ったのが幸いした。課長の家は幽霊タウンの3つ手前の駅の小さい戸建てが建て込んだ一角にあった。少し離れたところを自転車で行き来して様子を伺った。二階のベランダに息子らしき若者が出てきて辺りをうかがっている。胸騒ぎがした。俺は少し離れた高台の公園までペダルを高速回転させた。そこから課長の家に小型双眼鏡の焦点を合わせた。息子らしき若者が小さな如雨露で鉢植に水をやっていた。倍率を上げた。その鉢植はたくさんあり、雑草が茂っている風にしか見えなかった。ピンときた。大麻だと思った。デジカメで数枚撮影し、すぐさま図書館に行き、あの雑草が大麻かどうか図鑑で調べた。
 予想どおりだったが、直ぐに警察へ情報提供をしたわけではない。それから三回、課長の家を見張った。三回目、あの高級外車が課長の家の近くに停まった。息子が降りて足早に家にかけこんだ。北本が後部の右側の席でほくそ笑んでいた。
 やはり北本が絡んでいた。5年ほど前に、課長は一度あの息子を会社に連れてきたことがある。ちょうど北本が入社した時あたりだった。あの時から何度か課長と北本が飲んでいたということを亡くなったおばちゃんが話していた。
 あいつはそのことを手掛かりに課長を丸め込み、そして儲かることなら何でもする性格が、課長の息子を大麻栽培に駆り立てたのだろうと俺は想像した。
 完全にアウトローであるのに、サラリーマンを気取っている北本に、少しでも打撃を与えて、警察の恐ろしさを見せてやろうとしたのだが、果たしてうまくいくだろうか。課長の辞表でこの件についてはお開きになる公算が強いと俺は思っている。
 そんなことは分っているから、第二弾、第三弾は用意してある。だんだん追い詰めて敗者の意地の恐ろしさを見せてやる。
 三日後、朝のワイドショーで課長の家やベランダが写し出されていた。課長が退職したかどうかは知らないが、息子は逮捕された。
 世間体を重んじる会社だったから、この大麻騒動は大きな打撃になるだろうが、こっちは第二弾を遂行するのみである。そのターゲットは俺が馘の原因となった北本に車椅子をひっくり返されて見舞金を取られた塚田だ。
 北本と縁を切るどころか、子分のようになって使い走りをしているようじゃ、まともに生きているはずがないではないか。それを知るために幽霊タウンのあのお姉さんに手伝ってもらうことにした。深夜占拠している住居のポストに、前に渡した名刺の名前で封筒を突っ込んでおいた。好奇心とお金が大好きなおばさん、いや、お姉さんに何も知らないうちに手伝わせることにしたのだ。
 お姉さんが塚田の運転する車がいつも停車する50mほど手前に水たまりを作り、そこを通った時に水しぶきで濡れたなら、あと五千円渡すというものだ。もちろん塚田に少しだけ文句を言うことを付け加えておいた。
 お姉さんは初めから5000円を手にし、長くても数分の探偵の手伝いで5000円を新たに手にすることができるから、前日の夕方にせっせと水たまりを作った。
 翌日午前7時、あの高級車がお姉さんが作った水たまりを勢いよく通過した。泥水が横で洗濯物を干していたお姉さんにかかった。洗濯物にも飛沫がかかった。
 車はそのまま無視して北本の占拠している家の前で停まった。お姉さんは駆けて行き、「ちょっと、あんたの車で私も洗濯物も汚れてしまった。どうしてくれるの」と喚いた。
「そんなの知らない。とっとと引っ込みな。痛い目にあいたのか」と凄んだ。
 おばさん、いやお姉さんは前々から腹立たしく思ってる北本とその仲間である塚田をやり込めたかったが、さすがに立ち向かうことはできない。そこでお姉さんは車のドアを蹴飛ばした。
 ボンっと音がした。塚田が「このババア」と叫んでお姉さんを殴った。お姉さんはその場に倒れ「痛いよ、痛いよ」と泣き叫んだ。
 女の泣き声を聞いたのか、どこからともなくホームレスらしき男が三人出てきて塚田を取り囲んだ。
「兄ちゃん。お姉ちゃんにクリーニング代くらい払ってあげろよ。おいらたちにもおこぼれをくれよ。風呂に入りたい」
 髪の毛が垢でゴワゴワになった鼠色の男が塚田に下から舐めるように見つめながら言った。他の薄汚い男二人も物欲しそうに塚田に迫まった。強気だった塚田は大人しくなっていた。
「さ、兄ちゃん、どうする」と鼠男が凄んだ時、北本が出てきた。

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