究極の完全犯罪 その17

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「あの運転手は土曜日の朝、外れの空き地にトラックを止めて空き缶を集めている運転手なんだよ。あいつはね、量りに細工をして重量を1割5分も誤魔化しているんだよ。こっちで量って持って行くと、いちゃもんをつけるんだ。前は別の業者だったけど、いつのまにかあいつが来るようになったんだ。あの疾風の息のかかった者とは誰も思ってなかったよ。あいつが来てからは引取料金も半値になってしまったよ。けれども来月からはそうはいかないよ。ボランティアの人が1軒1軒まわってくれるんだ。もともと廃品回収の大手の傘下からだから、横槍を入れられてもちゃんとやってくれるらしい。もうあいつも北本も、空き缶では儲けられないんだ」
 お姉さんはざまぁ見ろ、といった風に笑ったが、それは一度も実行されることはないだろう。たぶんもっと引取料金は下がってしまうに違いない。あの北本は一度つかんだ甘い汁の元をそう簡単に手放しはしない。俺がさっき撮ったビデオを送りつければ塚田は会社をクビになる。そうなれば塚田は廃品回収を本業にするだろう。お姉さんはここでの空き缶集めはできなくなるかも知れないが、その時は自分達で考えるしかない。
 俺はちょっと足早に幽霊タウンを離れた。もちろん全方向に神経を配った。北本と塚田の乗った車は直ぐに出て行ったが、そのまま会社に直行しているはずがない。お姉さんだけならそのままで済ましただろうが、ホームレスが三人も現われたことは不安材料として北本の頭の中に必ず残っている。
 1キロくらい歩いたら国道への交差点が見えてきた。このあたりは見通しがきく。あの外国車が近くに止まっていたら直ぐに見つけることはできる。俺はガードレールに腰掛けて、タバコを吸った。
 いた。やっぱり俺を見張っていたんだ。喫茶店の駐車場だ。
 塚田ならまだしも、悪知恵がはたらき感が鋭い北本だ。あいつならあの時、まだ誰かが居たと考えるのは当然だ。幽霊タウンの方向から歩いてきた俺を、ホームレス達と関係あると考えるに違いない。ひょっとしたら写真くらい撮っていてもおかしくない。
 俺は会社へ急ぐサラリーマンのように喫茶店を素通りして100メートル程先にあるバス停で高校生の後ろに並んでバスを待つことにした。こうすれば幽霊タウンの手前にある戸建て住宅のほうから来たと勘違いすることを狙ってだ。
 バスに乗った。空いていた。一番後ろの席に座った。やっぱりあの外国車がついてきている。次のバス停で止まった時も追い越さなかった。
 駅についた。みんが降りた。そして自動改札を急いで抜けて行く。急行が来るからだ。
 俺も急いだ。改札を抜けてホームへの渡り階段を上がった。そして降りる階段の途中の踊り場で立ち止まった急行には乗らずまた階段を上がり、改札への階段を降りようとしたら、北本が上ってくるではないか。なんて執拗な奴らだ。俺が急行に乗ったことを確認しようとしている。
 俺は何喰わぬ顔で北本とすれ違った。あいつは全く気づかなかった。ここでニヤッと笑いたかったが、笑ったらどこかで見張ってるかも知れない塚田に見破られてしまう。そんなへまはしない。
 今度はトイレに入った後、3番ホームへ行き各駅停車の電車に乗り、次の駅で降りた。
 これで完璧だ。あとはここにあるビデオを効果的に利用し、まず塚田をクビにすることだ。北本のことは今は放っておく。塚田がクビになったら俺が勤めていたあの会社にも影響が及ぶだろう。その時の北本の行動を確認してからだ。
 自転車で遠回りをして幽霊タウンに戻り、ビデオのコピーを作り、お姉さんやタウンの家並などを総べてぼかした。終わったらもう夕方近くになっていた。俺はまた自転車を駆って塚田の会社まで飛ばし、裏門の脇にある郵便受けにビデオを収録したメモリを入れた定型の封筒を押し込んだ。これで明日の午後は一騒動だ。
 翌日の昼過ぎ、俺は塚田の上司に電話をかけた。あのビデオのことと機械の安全装置を改造していることが公になれば労働基準監督局が入るよ、と声を変えて脅してやった。
 脅してやったと言ったが、それは俺が思ったことで、会社勤めを長くしているベテラン社員や管理者には機械の改造なんて、端からそんなものだと容認していて、蚊に刺されたほどにも感じていないかも知れない。会社のダメージになるのはビデオだ。塚田の上司は機械の改造より自分の部下が社会問題となっている疾風の手先となり、休日にアルバイトをしている方を問題にするのは確実だ。労基局への対応は簡単だが、疾風のことでマスコミに嗅ぎ付けられれば、即座に会社の信用は失墜する。電話で話した上司は今、右往左往しているに違いない。
 俺はレンタカーを裏門から少し離れた見通しがきくところに停めて、例のごとく双眼鏡で守衛室付近を見ていた。
 守衛のおじさんが誰かに叱られているみたいだ。あ、俺の封筒だ。あの郵便受けはほとんど使われていないものだった。大きな失敗だったが、電話をして良かった。

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