究極の完全犯罪 その14

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 幽霊タウンに住みついて5年になるお姉さんはここに住んでいる身内のことや、時おりホームレスなんかがやってきて住みつくことなどを話してくれた。冷暖房や風呂のエネルギーはすべて電気で賄うという優雅なものだが、その実は近くの電気設備のあるところから電線を引き、水道の元栓を開けて勝手に水を得ているというものだ。
 そんなお姉さんが怒り心頭なのは、一月以上かけて家族で集めた空き缶を、一夜でかっ攫った北本と、その仲間たちに恨み骨髄なのだが、「あんたのものという証拠がどこにある。勝手に住んで電気や水を盗んでいることを警察に知らせてやろうか」と言われたら抵抗することなんてできるわけがない。それからは空き缶回収はやめて粗大ゴミの日に使えそうなものを集め、フリーマーケットの近くの路上で売ることにしているという。
「この男は週に4日ほどここへ来ているんだよ。火曜日から金曜日までね。あそこの部屋以外にもいくつか部屋を使ってるんだ。ま、私らが住んでいる棟には来ないけどね。朝に大きな車で子分が迎えにくることがあるけど、さっきも来ていたようだね」
 こう言って「何か頼みごとがあるなら言うてね」と嬉しそうな顔をして去っていった。
 思い出した。車を運転していたのは俺がクビになる原因となった塚田だ。あいつは結局北本たちの手から逃れられなかったのだ。
「あんた、本当に探偵か? この名刺、電話番号書いてないで。やっぱり怪しいわ」
 いつのまにか、さっきのおばさんが横に来て俺の顔をまじまじと見ている。
「あ、それね。探偵の名刺には電話番号は記載しないんだ。名前だけ。悪用されたら困るだろ。所在地も近くまでだよ。個人の探偵なんてそんなものだよ。用事があればこっちから出向くから、お姉さんもお名前教えてよ」
 俺は逆手にとって言い包めた。おばさんの名は良子と言った。納得したような納得しなかったような感じで北本のところにある空き缶を漁り出すのだった。

 会社をクビになって10ヵ月が経過した。幽霊タウンを調査してからでも3月も経っていた。北本の行動は2ヵ月間徹底して調べ上げた。随分金も使った。住んでいたアパートも引き払った。一応田舎に帰ったことになっているが、それは万が一、病気になったりした時のためだ。いまの住処は幽霊タウンだ。けれどもあのおばさんは気づいていない。3ヵ月前とは全く風貌が変ってしまい、一番仲が良かった佐野ヒロシさえ話すことがなかったら絶対に気づかれない自信があった。その理由は自転車での移動にあった。夕方以降は別にして日のあるうちは遠くても自転車を使った。おかげで筋骨隆々となり、競輪選手の体型になってしまった。あのおばちゃんとも近くにあるスーパーで3、4回顔を合わせているのに、全く気づかなかった。今の俺なら北本なんて目じゃない。たとえあいつの仲間が喧嘩を売ってきても、やっつける自信がある。ま、見ただけで向こうの気力が萎えてしまうだろうから、喧嘩になんかならない。
 こんなことはしたくはないが、まず手始めに課長にお礼をしよう。借りたものを返すのはあたりまえだ。全くの捏造であった横領事件のけりをつけようと思う。課長からは直接暴力は受けていないから、暴力に訴えることはしない。けれどもきっちりとけりはつけてやる。
 一週間後、俺は喫茶店トレビの窓側に座り課長が慌てふためいて帰宅するところを眺めて少しでも溜飲を下げてやろうと思った。
 思った通り課長は5時15分に喫茶店の前を早足で通り抜けた。急いで家に帰らなければならないことが起きたのだ。明日になったら課長も辞表を提出することになるだろう。あーあ、スッキリした。ベランダにへんな草の鉢を置いて育てているのがばれたからだ。
 もちろん俺が調べて警察にタレこんだからだが、やっぱり違法薬物等には警察はすぐに行動することが分った。

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