究極の完全犯罪 その13

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 車が去ってから10分ほどして俺は北本の部屋の裏に回った。やっつける相手のことは生活習慣や行動まで把握していなければ、思わぬ所で足を掬われるからだ。洗濯物などが干してあったら、シャツ一枚で暮らしぶりや消費志向は分かるとテレビに出てた探偵業の男が話していた。その言葉どおりに調べてみることにした。が何もなかった。もう1度入り口に回り、辺りを見回してから今度はポリバケツの中を覗いた。ビールの空き缶ばかりがはみ出んばかりに押し込められている。
 生活臭が感じられない。このボロアパートは何かの隠れ蓑に使われているようだ。
 アパートを離れ、ちょっと近所を見て回った。前時代の住まなくなった長家が20棟くらいあったが、それでも北本のようにしぶとく住み続けている者がいる。周りを見ながらそんなことを思っていると、目の前に水が飛んできた。慌ててブレーキをかけると、横からおばさんが怖い顔をして自転車の前方を塞ぎ俺を睨んだ。

「あんたか? 空き缶泥棒は」
 そう言って箒で殴る姿勢をとった。殴られたらたまらない。
「違いますよ。ちょっとここに住んでいる人の調査をしているものです」
「いや、怪しいな。この幽霊タウンには3軒しか住んでいないんや。誰の調査をしてるのか、はっきり話してもらおか。さもないとここから帰られへんで」
 関西弁の中年夫人が俺を脅す。別に怖くはないが、このおばさんの相手をしたら俺の知らない北本の何かを知ることができるかも知れない。関西人はおしゃべりが3度の飯より大好きなんだから。特に他人のことを面白おかしく話してくれるに違いない、と俺は踏んだ。
「お姉さんが知りたいなら話しますよ。2棟向こうの北本さんの調査ですよ。あ、失礼しました。私、山口と申します」
 こんなこともあろうかと思い、偽の名刺を作っておいたのが幸いした。中年夫人は名刺を何度か見返して、嬉しそうに言った。
「ほんまに探偵さんやねんな。それなら教えてあげるけど、ここには北本なんて人は住んでないよ。2棟向こうは、3ヵ月前まで外国人が住んでいたんや。外国人というても顔は日本人と同じやから。今は誰もいないはずやけど。おかしいな」
「入り口のポリバケツには缶ビールの空き缶が溢れるくらいギュウギュウに入っていますよ」
「ほんまか。あとで貰うわ。また勝手に誰か住んでいるんやな。あそこの棟は4戸1の2階建ての長屋やから、住みやすいけれど、独身者は住むことはなかったけどね。私のところもそうやけど、独身者はワンルームみたいな形が便利がええやろ」
「そうですか。じゃ北本なんて人は住んでないんですね」
「私は知らんけど、そいつの顔を見たら分かるかも知れへんで。兄ちゃん、写真持ってるやろ」
 俺は慰安旅行に一度だけ参加したことがあり、その時にみんなで撮った集合写真の北本の部分だけをズームしたモノクロ写真を見せた。すると今度は写真を横にしたり遠くへかざしたりしながら得心が行ったように自分で頷いてから言った。
「こいつや。この辺りで闇の廃品回収をしてる親玉やないの。あんた、こいつは私らのアルバイトを奪った奴や。一日で1000円か2000円くらいの稼ぎを取り上げたんや。こいつがここに棲みついていたんか。道理で夜になると族みたいなやつが集まってくるはずや。みんなに指示出してるんや」
 北本の本当の顔って何なんだ。またややこしくなってしまった。

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