究極の完全犯罪 その7

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 そのまま正面の通用門へ向かった、昨夜の守衛が「クビになったの?可哀想に、ただ酔っぱらっただけなのにねぇ」と言った。
「おじさんもスマホをするのかい」
「いや、普通のケイタイだけど、配信されたよ。こんなこともできるんだね。けれどもあの写真は本当に吉田さんが女の子の下着に手を入れようとしているところなのかね。昨夜は酔っぱらってたんだから」
「そうだよ、おじさん。その写真、俺にも見せてくれよ。俺には配信されていないんだ」
 おじさんは嬉しそうにホラッ、といった感じで見せてくれた。パッと見ただけでは、俺かどうか分からない。けれども背景はイタリアンのお店の入り口あたりだ。見方によれば岸谷小夜子が俺の手を払い除けている風に見えるけれど、俺の手を下着の方へ小夜子自ら持ってきているようにも見える。
 俺には全く覚えがない。北本が見せた写真なら小夜子が手を伸ばしてケイタイで撮ることもできる。この写真は自分では撮ることができない。誰かが隠し撮りをしたか、何らかの方法で創作したものに違いない。
「これは吉田さんじゃないよね。うまく合成しているよ」
「おじさんは、この写真が合成だと分かるのかい」
「素人には分からないと思うけど、吉田さんの顔と腕への光の当り方が微妙に違うんだ。うまく作ったものだ」
 俺はおじさんに礼を言った後、念のためにその写真を俺のケイタイへ送ってもらった。
 トレビで写真を見つめ、どうしてこんなことになったのか考えていたが、もっと差し迫ったことがあることに思い至った。明日も仕事がなかったら、どうしよう。課長の嫌がらせだけで済みそうにもない。第2弾も用意しているだろう。北本のあのねちっこさは尋常じゃない。追い込みを必ずかけてくる。どうする。
 冷めたコーヒーを飲もうとしていた時に岸谷小夜子が入ってきた。
 岸谷小夜子はさっと俺の前に座るとウェイターにアイスコーヒーと言い俺を見つめ、ニヤッと笑った
「吉田さんもあんな北本に目を付けられて災難だったわね。それって私も同じ。ま、仕方ないけど。今月でこの会社ともさよならだから。だから教えてあげるの。感謝して」
 何が感謝だ。人を罠にはめて、感謝しろとはどの口が言っているのだ。俺は一層小夜子を睨んだ。
「恐いお顔よ。ま、仕方ないか。じゃ、話すわよ。一度しか言わないからしっかり聞いてよね」
 アイスコーヒーを思いきりすすり、殆ど一気に飲み干してから小夜子は話し始めた。
「あいつは私と親友だった洋子の人生をメチャメチャにしたあげく、私に不正の片棒を担がせたのよ」と始まり、5分ほど続けて喋るのだった。
 岸谷小夜子の話を要約すると次のようなことだった。
 4ケ月前に新入社員コンパがあり、入社3年目の岸谷小夜子も女子が少ないからといって強引に参加させられた。おまけに「君の友人が1人参加してくれたら飲み代はもちろんバイト料1万円を出すよ」と言われたので、学生からの友人だった洋子を誘った。ちょっと暗い感じの洋子だったが、顔はタレント並だったから、男達は洋子に注目していた。
 面白くないのが小夜子だった。1万円を貰ったものの、男達はみんな洋子に群がり、誰も小夜子に寄りつかなかった。そこに北本が近寄ってきた。洋子を紹介しろと言う。面白くない小夜子は洋子にビールをしこたま飲ませた。酒に強くない洋子はすぐに寝入ってしまい、北本が介抱することになった。
 翌日、小夜子は洋子が自殺を図ったことを洋子のフィアンセから聞いた。幸い大事に至らなかったが、その後は洋子とは一切連絡をとることが出来なくなった。それにも増して北本が岸谷に圧力をかけてきた。洋子の件を言われたくなかったら、俺のサインのある各種出金伝票は全て支払ってくれ、となった。
 それからしばらくして北本は納得が行かない出金をしたことを逆手にとり岸谷に美人局のようなことを手伝わせた。
 このままでは北本に地獄の底まで落とされることを悟り、会社を辞めることにした、という。
 ことの顛末を話したあと、岸本小夜子は清々したように、ニヤッと笑った。まるで騙された俺を嘲笑っているように。

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