究極の完全犯罪  その1

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 推理小説では完全犯罪と銘打ちながらも、最後には完全犯罪は成立しないのが定番だ。もしも完全犯罪が成立するならば、そんな推理小説自体が成り立たない。これは推理小説のパラドックスでもある。
 絶対に犯人が判明してこそミステリーという小説のジャンルがあるのだ。
 しかし完全犯罪は世の中に腐るほど発生している。迷宮入り事件がそうだ。ミステリーを解決する名探偵であってもこの謎は解けないのである。そうなのだ。世の中には解決できない事件の方が多いのだ。私も一つ完全犯罪を成立させることのできる殺人事件を起こそうではないか。世の中の誰もが鬼畜、冷血無惨な犯人と予想はするが絶対に解明できなければ、マスメディアはどのように対処するのだろうか。煽るだけ煽って、後は知らぬ存ぜぬを決め込むのが常だが、そうはさせない論陣を張ることが絶対条件として必要だ。
 好き放題勝手なことを書かせ、喋らせ、放送させて、そのまま逃げるのであれば、マスコミこそが悪であることを世間に知らしめなければならない。いつも大多数の意見である振りをして、本当の所は世論を誘導しているマスメディアに一泡吹かせて溜飲を下げたいものだ。正義ぶって正義など一欠片もない悪魔の手先ども、見てるがいい。もうその手には乗らないことにした。

 一
「おい、吉田、人間はどうして人間なのだ。分かるか」
 物理の授業で、いつもへんてこりんなことを言う佐川先生だが、Dクラスの多くの者は佐川先生が好きだ。あほらしいことを言いながらも、ちゃんと物理を教えてくれる。ロールプレーイングゲームみたいな感じで、やっているうちに自然と身につくのだから不思議だ。
「吉田、意見を述べろ」
 俺は間違っていても構わないけど、みんなの笑いを取りたいと思った。笑うことのできる授業は楽しいからだ。それで俺はちょっと考えてから言った。
「屁をこいたら、臭いです。横の佐野は臭くてたまらず怒り出すかも知れません。一つの行為に対して他の者が反応するのが人間なのです」
 俺はこう言いながらスカ屁をした。立ってしたのだから、ちょうど佐野の顔の高さにまともにガスが噴射されたことになり、俺の屁の臭いを吸い込むことになった。
 佐野は「先生、死にそうです」と言いながら、苦しそうにもがき、両手を前にだらりと投げ出して机の上に顔をつける格好をした。するとみんながドッと笑った。
「良くできました。吉田の言うとおりだ。他人の行動に影響を与えたり、与えられたりするのが他の動物と違うところでもあるな。しかし吉田の屁は臭い。窓を開けろ」
 佐川先生も自ら窓を開けて外の空気を胸一杯吸い込んでいる。いつものように笑いをとることができた俺と佐野はお互いの顔を見ながらハイタッチをした。

 こんな環境の中で高校生活を楽しみ、そして卒業して十数年が過ぎた。誰もが大学へ進学したので俺もごく普通の大学に進み、そこそこの会社に就職したが、どうしてか三十を過ぎても平社員のままで、このごろは後輩までが邪魔物みたいに俺に接することがある。一流大学を出ていないためだろうか。俺はもう諦めていた。しかし会社を辞めようなんてことは思ったこともない。どう言われようがこんな世の中、辞めて再就職先があろうと、絶対に今の待遇より良くなることはない。いわば達観している訳だが、もしも俺に力があればこんな後輩は絶対に島流しにしてやる、と心で思っていた。
 仕事を終え、誰が待つ訳でもないアパートへいつものようにまっすぐ戻った。居酒屋でちょっと一杯なんてことは、社会人になってすぐに卒業した。酒を飲むのだったら自分で買ってきて飲む方が経済的にも叶ったことだと分かったからだ。あのざわついた雰囲気がたまらない、なんて言う人も多いが、他人の酒を飲む姿を見ていても俺は面白いと思うことはない。そんなわけでいつも会社からまっすぐにアパートに辿り着くわけだ。
 郵便受けにチラシが溜っていた。手紙なんか来ることはないので全部まとめて捨てようとしたら、ハガキが一枚落ちた。往復ハガキだ。他にも必要な郵便物があるかも知れないから、一応調べてからゴミ箱行きを決めた。往復ハガキだけになった。

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