ク マ  その10 最終回

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 最悪の状態に陥りました。何も食べられない日が何日も続きました。そして野良犬仲間は私の周りから一匹もいなくなったのです。隣町や川を渡って対岸の町に移って行ったのでしょうか。それとも街のどこかで隠れ棲んでいるのかも知れません。私は食べ物を求め街へ出ることを決断しました。このままでは餓死してしまうからです。
 食べ物の臭いがだんだん強くなって来ました。他にも覚えのある匂いがします。あのオッサンの匂いです。それにボスが生きていた時に嗅いだことのある匂いです。危険な匂いです。
 いやな予感がしたので私は走りました。もう一つの臭いはボーガン男だったからです。
 河川敷へ向かう一本道をオッサンは袋を抱えて早足で歩いています。なんだか嬉しそうな感じもします。その後方でボーガン男が狙いを定めたのです。私は大きく吠えてオッサンの後ろに飛び出しました。お腹に衝撃が走りました。あの金属棒が刺さったのです。
 それだけを知ったあと、私は気を失いました。だからその後のことは何も覚えていません。気がついた時、なんだか眩しすぎるところで寝ていました。人間がよく口にする天国や極楽という所でしょうか。野良犬でもこんな来世に行けるなら捨てたものじゃありません。

 クマが吠えたので振り返ると足下へ落ちて来た。釘が刺さった衝撃で気絶しているが死んではいないようだ。ボーガン男の姿は見えないが見当はついている。あいつだ。
 まずクマを助けるために友人の医者に電話をして来るように話した。救急車は犬なんか運びっこないからだ。人間を治す医者なら動物だって治せるはずだし、無類の動物好きで良かった。そいつにクマを任せ餌を貰ったコンビニに行くと、あの兄ちゃんは居ず、店は空っぽだった。
 やっぱりそうだ。勘が当った。ちょうど隣街で鳩がパチンコで撃たれた頃、あの兄ちゃんがカウンターの中で細いゴムチューブをさわっているのを偶然見かけたことがあった。あれがパチンコになり、そしてボーガンに進化したのだ。犬の餌のために残り物を貰ったことがあいつの倒錯した心に火をつけたのなら、その原因の一端はこっちにあるのかも知れないが、そんなの理由にならない。
 面倒臭いが仕方なくケイタイを取り出し、地元の警察署長に電話を入れ、友人の家にクマの様子を見に行くことにした。
 クマの傷は大したことはなかった。友人が言うには、当った時のスピードが遅かったのと汚れた毛が絡み付いていたため、内臓の手前で止まっていたらしい。
 だが、大きな問題が残った。このクマを飼うことになってしまったのだ。そのまま放り出すには大きすぎて危険と見なされ捕獲されてしまうのがおちだ、と言う。
「警察庁の人間は法をまもらなきゃ」と笑いながら言った。

 私はオッサンの家で生活することになりました。居間で寝そべっていると時々蹴飛ばされますが、私には痛くも痒くもないのです。それよりも私を連れてジョギングをすることになり、かなり引き締まった体になってきたので、オッサンは嬉しそうです。
 時おりバクやほかの野良犬と河川敷で会う時はリードを離してくれるのです。本当はいけないことなのですが、そんなのたいしたことはないと思ってるようです。
  おわり

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