ク マ  その8

2001つるみ05.JPG
 あれから一週間が経った。一日おきに早朝ジョギングをしたが、クマはおろか熊やその仲間の野良犬を見ることは一度もなかった。みんなしてどこかに隠れているのだろうか。たぶん他の野良犬達もクマの怪我の理由を知って人間には近づかないようにしているのかも知れない。
 二日に一度のジョギングとは言え、下腹部の出具合が少しへっこんできた感じだ。継続は力なり、とはこのことなのだろう。走ったら疲れるけれど、酒を呑んだ翌日の二日酔いのような嫌な疲労感ではなく、心地よい疲労だ。ずっと続けようと思うが、あの釘を飛ばした男(勝手にそのように思ってるだけで、女かも知れないが)に遭遇しないように気をつけなければならない。ビクビクしてジョギングするなんて、まっぴらだ。精神衛生上も良くない。
 いつもの上り坂をゆっくりゆっくり駆け上がり、家への帰路となった。両腕を上げて体を左右に曲げたりしながら歩いていると犬の遠吠えが聞こえた。河川敷の薮の中からだと思う。やっぱり近くに隠れているんだ。陽が上って狙われる危険度が少なくなったら安心して出て来るのだろうか。あの遠吠えがクマかどうかは分からないが、クマなら元気な姿を見たいと思った。あの傷はもう完治しているころだ。

 まさかボスが死ぬなんて思ってもみませんでした。この地域では最強の野良犬なのですから。でも、人間の作ったボーガンにはかなわなかったのです。
 私が狙われたことはすぐにみんなの知るところとなりました。それからはなるべく注意をして人間を見かけたらすぐに身を隠すことをどの野良犬も励行していたのですが、餌場ではそうも行きません。いつも腹を空かせているからこそ野良犬なのです。いつものオバサンが餌を持って来て、そこで食べている時です。ボスといつも一緒に行動している二匹の小犬の一匹であるバクの背中をあの金属の棒が掠めたのです。ボスはすぐにボーガン男だと気付きました。遠くにいても臭いで覚えていたのでしょう。すぐに駆け出しました。離れた木陰にその男を見たからです。ボスがボーガン男に飛びかかろうとした時です。矢が飛んで来てボスの首のあたりに突き刺さりました。ボスは空中から真下にドスンと落ちました。男はそのまま逃げ去ったのです。
 私達はボスのところへ駆け寄りました。まだ生きていますが、もう立ち上がることはできません。みんなでボスの体を押して薮の中へ隠しました。
 その翌日、ボスは死んでしまいました。死に顔は生きていた時のボスの恐さは微塵もなく、安らかなものでした。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント