ク マ  その2

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 大きな犬だと思った。それに汚れているのかくすんだ黒い毛色だ。これじゃ熊と間違えても仕方ない。なんだ震えてるじゃないか。人が恐いのだろうか。こんなに大きいのに臆病者の野良犬なんだ。ちょっと脅かしてやろうか。いや待て。もしも脅かして逆襲されでもしたら大変だ。窮犬人間に咬みつく、なんて諺もあるくらいだ。違う。窮鼠猫を咬むが本当なのだが、そんなことどうでもいい。いくら臆病な野良犬でも、レトリバーより大きいくらいだから、咬みつかれればただでは済まない。狂犬病の予防接種なんか受けているはずもない。
 ここは相手にせずに、このまま河川敷の道を進んだ方が良いだろう。もしも坂をこのまま上ったとしたら、すれ違い様にガブッとやられる可能性もある。腹が減っていたらなおさらだ。もう少し経てば真っ暗だ。餌にありつけるなんてこともないだろう。相手は野良犬なんだから本能のままに行動するかも知れないのだ。犬の先祖は狼らしいから、人間を喰い殺すDNAだってあるはずだ。
 君子ではないが、危ういことに近づかないほうが賢明だ。
 お、もうこんな時間だ。初回にとんだ邪魔が入った。少し先の別の上り道から帰ろう。

 オッサンはしばらく私を見つめてから、回れ右をしてゆっくりと向こうへ走って行きました。私はホッとしました。近づいてきたとき、そこいらに落ちている石や棒切れなんかを拾ってぶつけたり殴り掛かるかも知れないと思ったからです。杞憂だったので良かったのですが、寒くて寒くて、このままでは風邪を引いてしまいます。毛を乾かすにはどうすれば良いか考えました。少し風が吹いているので、このままでも乾くでしょうが、時間がかかり過ぎ、本当に体温が低下して病気になってしまいます。
 頭をフルに回転させ、どうすれば良いか考えました。妙案が浮かびました。簡単なことです。そうです。走ればいいことなんです。腹が減っているけれど、走れば暖かくなります。おまけに風で毛も自然と乾いてしまいます。上手く行きそうだと思いましたが、致命的な欠陥がありました。それを私は忘れていたのです。とにかく寒いので走ることにしました。走っているとだんだん暖かくなってきました。考えていた通りです。もう少しすれば毛は乾くでしょう。そんなことを思ってると前方に人の姿が見えました。あ、さっきのオッサンがいる。
 先にゆっくり走ってるオッサンに追いついてしまったのです。私は急停止しました。その時、オッサンが振り向いたのです。どうしよう。また色んなことが頭を過りましたが、またじっとしているしかありません。

 まだ二キロも走ってないのに、もう息が上がってきた。走るにはリズムが大切なんだ。初っ端から熊みたいな野良犬に出くわしたのがいけなかったのだ。もう走るのは止そう。歩きだ。ウン? 何かの気配がする。さっきみたいにこの辺りにも野良犬がいるのかな。ずいぶん暗くなったので何処にいるのか分からない。後ろかな。どうする。
 あ、やっぱりいた。あの野良犬のクマだ。どうしてついて来るんだ。まさか襲おうとしているのではないだろうな。腹が減ってとち狂ったなら、臆病であろうと食欲を満たすために過激な行動に出る犬だっているはずだ。
 待てよ。襲うなら立ち止まらないで後ろから飛びかかれば良いではないか。それに人間を襲っても食べることなんか出来ない。せいぜい怪我をさせるくらいだ。子供ではないのだから。後をついて来たってことは、なにか餌でももらおうとしているのだろうか。
 しかし困ったものだ。ずっとついて来られても餌をあげるわけにはいかない。こんなに大きな犬なんて飼うことは絶対に無理だ。2DKのアパートに居られたらこっちの寝床がなくなってしまう。餌代だってバカにならないではないか。
 え、なんでこんなことを考えなきゃならないんだ。野良犬なんて無視して走って帰ればいいだけだ。

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