隠し神 第3部 No.26

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 二人が御馳走様と手を合わせた時だった。二階で大きな音がして、少し家が揺れた。 
びっくりした兄妹は急いで階段を駆け上った。
 部屋は壊れてはいなかった。けれど人が横たわっている。
「大先生!」
 勇太が即座に言った。
 目を醒ましたダメ男はゆっくり辺りを見回し「どうも、どうも」とトンチンカンな言葉を発した。
「大先生、どうなさったのですか」
 華子が訊いた。
 ダメ男は千手観音を探していた。また消えたのだ。ウリボーを椎の実島の海域へ送り届けて役目が終わったのだろう。消えてしまった。仕方がない。ウリボーが元気になったかどうか確認しなければならない。その後はヘルヘイトを完全消滅させるだけだ。方法は元締やウリボーと相談すれば分かる。
「勇太君、大きなイカを見なかったかい。ウリボーって名なんだけど大きいよ」
「やっぱり大先生が関係していたんだ。島のまわりに巨大イカがいっぱいいるよ。どのイカがそのウリボーか分からない。先生は分かるのかね」
「うん、分かる。可愛い顔でちょっと疲れた感じなんだ。敵意を持っていれば分からないかも知れないけれど」
「そんなものなのか。じゃ、みんなに聞いてみようか」
 そう言うと勇太は防災無線で島中に呼びかけた。
「ダメ男大先生が来られた。大きなイカの中でちょっと疲れたようなイカがどこにいるか知っていたら知らせてほしい」
 しばらくすると次々にイカの情報が寄せられた。その中で勇太のとばっちりを受けて怪我をした土屋の情報がウリボーだと思った。
「土屋君が、そのウリボーは鼻曲がりの岬にいるらしいって。先生が僕を助けてくれた所から見えた岬の近くにね」
 それを聞くやいなや俺は瞬間移動をした。勇太も華子も俺が消えても驚きはしない。かえって懐かしさがこみ上げてきたようで、目にうっすら涙を浮かべている。
 鼻曲がりの岬の先端で海を見ていると、急に体が浮き上がり、沖へ持って行かれるのだった。俺は驚きもしなかった。ウリボーの手が俺を掴んだことくらい分かっていた。
「ダメ男、ありがとう。あのまま海の底にいたら、もう会うことはできなかったね。なんとか元通りになってきた感じだよ。まだ目覚めていないけど神様たちが少しずつ元気をくれるんだ」
「ここに仲間が集まっているのはどういうことなんだ、ウリボー」
「この椎の実島が僕達の揺りかごで、この岬の下でしばらく過ごすんだ。あの変な物は僕達一族にも悪影響を及ぼしているので、ここでリフレッシュしなければ病気になってしまうんだ。僕は特に休養が必要なんだって。観音様が言ってたよ」
 ウリボーたちも観音様の言うことに従っているみたいだ。観音様は神様なのだろうか。
 そんなことは後で元締に聞けば良い。その前になんだか疲れた以上に悲しい顔をしているウリボーを元気づける方が先決だ。そうしないと洋子と紘子がまた文句を言うに決まっている。
「ウリボー、疲れた以上にうちひしがれているようだが、他に何かあったのかい」
 俺が訊ねると、ワアーッと泣き出した。
 しばらくそのままにしておくと、仲間のイカたちが長い手を伸ばしてウリボーをを優しく包み、何か話をしているのだが、俺にはわからない。どうも俺と話が出来るのはウリボーだけみたいだ。
「ウリボー、良かったら話してくれよ。人間にも話せばもっと楽になるかも知れないよ」
 ちょっとでも元気になってもらいたい一心で俺は言った。
「ごめんね、ダメ男。じゃ、話すよ」
 意を決してウリボーが俺にことの次第を話しはじめた。
「僕は父さんの意志をついで神様の揺りかごになったことは話したね。それで揺りかごを守っていると変な物が島の底にくっつき、僕達に悪い影響を与えるようになったんだ」
 それからは底の穴を広げないように島を引っ張ったり別の海域へ運んだりして、いろいろな生き物の意見を聞いたけど、どうにもならなかった。それでダメ男に頑張ってもらってなんとか除去することはできたけど、父さんと母さんがヘルヘイトに食べられてしまったんだ。僕を守るために盾になってくれたんだ」
 話し終えたウリボーはまた大声で泣くのだった。
 俺はウリボーたちがそんなにまでして変な物と戦っていたなんて、初めて知った。

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