隠し神 第3部 No.27

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 陽気な感じで俺と接していたウリボーだったが、本当のところは泣きたくて、泣きたくて仕方なかったのだ。
 人、いやイカにも、他のイカに話してないことがたくさんあるんだ、と俺は思った。自分一人で心の内に堅くしまっておいて、他のものに迷惑をかけないように心がけている、それがウリボーなのかも知れない。若いからやんちゃな子供みたいに振舞っているが、本当はずっとずっとみんなのことを考えているのかも知れない。
「ダメ男、成長したのう。わしが見込んだことだけはある」
 元締の声だ。
「何をおっしゃいます、元締。ダメ男は私が見い出した人間じゃないですか。私が見込んだ男なのです」
 イデレブラの声が久しぶりに聞こえてきたので、ちょっと安心したが、何か変だ。
 俺は馬鹿らしくなってきた。ウリボーの心根に拍手を送ってやりたいと思ってたら、神様たちが手柄の取り合いのようなことをしている。揺りかごが無事でいたことに感謝してウリボーを早く元気な姿に戻してあげなければならないのに。ほんと、神様は身勝手だ。
「それは悪かった。よし、みんなでウリボーを元気にしてやる。元気にしてやるから次はダメ男一人でヘルヘイトと最後の決着をつけるのじゃ」
 神様はまた勝手なことを言う。俺は思い切り神様を貶してやろうと思った。
「儂達をけなしてどうする、まずはヘルヘイトをやっつけてからじゃ。さ、ヘルヘイトが居そうなところまで送ってやろうぞ」
 あ、また変な言い回しだ。と思った瞬間、俺は神様たちによって別な場所へ瞬間移動させられた。
「このあたりにヘルヘイトは隠れておる。探し出して完全に消去するまで、帰って来ることはできぬ。後のことは儂たちに任せろ。ウリボーが元気になったら迎えに来るだろう。
「あなた、心配しないで思う存分戦って」
「帰ってきたら姉さんとの結婚式よ。母さんも待ち遠しいって」
 義父には会ったが、義母にはまだ会ってない。どんな人だろうか。あ、また余計なことを考えてしまった。元締たちの言い付けどおり、早くヘルヘイトをやっつけよう。
 俺は自分で気配を消した。
 ヘルヘイトが俺の居場所を知っていることは十分考えられる。いや、千手観音で移動している時から追尾していると考えておいた方が賢明だ。瞬間移動しても、何らかの方法で今でも知っているに違いない。気配を消して短い距離を瞬間移動した。あ、また囁きが聞こえたが、理解できない。
 俺は続けてもう一度短い距離を移動した。今度は何も聞こえなかった。やっぱりだ。小さな囁きはヘルヘイトの手下である神虫が俺の位置を知らせるために発したものだと考えていたことが当たっていた。今の移動は一層上の次元へのものだったから、神虫は知らせることができなかったのだ。たぶん神虫は境界の家と同じように時空の狭間に取り残されたに違いない。俺は自分の意志のものしか移動しないように念じて移動したのだから。くっついていた神虫は振り落とされただろう。
 俺はまた元の次元と元の海域に戻った。
『ダメ男、逃げたくせにどうして戻ってきたのだ。わざわざ死にに来なくてもよいだろうに。ワ、ハ、ハ』
 ヘルヘイトが自信を持って話しかけてくるのだが、俺がどこにいるのか分かっていないに決まっている。こっちが気配を消しているのだから、ヘルヘイトはどこにいるか分からない俺に向かい話しかけてきたのだ。俺の位置を確認していたなら、うだうだ言わずにあのドロドロの溶岩みたいなつぶてで総攻撃をかけた来た方が有利なはずだ。
「ヘルヘイト、早く俺を攻撃して葬ったらどうだ。できないから焦っているな。それじゃこっちからするぞ」
 そう言ってはみたものの、どんな攻撃をすれば良いのか、俺には分からない。考えてみれば、いままで一度だって攻撃なんかしたことはない。最終的には元締が助けてくれていた。

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