隠し神 第3部 No.25

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『どうして私が生きていて、その上またこの世界へ戻ってくることがきたのか、分からない風だな。元締が始末したはずなのに、とダメ男、お前自身信じられないようだが、現実に戻ってきたのだ。元締でも私を消し去ることはできなかった。つまり私は元締より上位の存在に進化したのだ。これで奇ッ怪島にいる神達もこれからは私の指示に従うことになる。愉快ではないか。私を葬ろうした者をこき使うことができる神になったのだから』
 ヘルヘイトはこの世に戻ることができて、その上さらに進化した存在になったことを俺に誇示したいようだが、俺には今、ヘルヘイトのことなど考えている暇はなかった。洋子と紘子のウリボーに対する思いで頭の中がいっぱいになっていて、その対処方法を考えるだけで精一杯だ。
「元気が戻ってきたようよ。もうすぐ話せるようになると思うわ」と紘子が言った。
「ここから10マイルくらい南のところに椎の実島があるわ。華子さんの、あの島よ。あそこだったら華子さんをはじめ、漁協の人達もウリボーを大切にしてくれると思うの。もう一踏ん張りよ。あなた頑張って」
 洋子がどうして俺が移動したこの海域のことや椎の実島のことを言い出したのかは分からないが、ウリボーのためにみんなが頑張っていることだけは十分にわかった。
 そのころ椎の実島に異常現象が起きつつあった。伊藤勇太の船の回りにイルカの群れが現れ、いっこうに離れようとしない。北の海なので、こんなに群れをなしてイルカが来ることはめったにない。
 勇太がイルカに気を取られていた時、仲間の船から連絡が続けざまに入った。巨大なイカが島を取り囲んでいるとのことで、どう対処すれば良いか尋ねるのだった。
 勇太はみんなに「絶対に手出ししちゃダメだ」と連絡し、最後に「幸運のイカだ」と付け加えた。仲間は勇太が二度も命拾いしたことから、勇太の言うことに絶大なる信頼をおいているのだ。なんだか分からない勇太だったが、こう言えばイカを殺しはしないと何気なく思った。
「今日は今年一番の豊漁ね。凄い」
 船から降ろされるトロ箱の多さに目を見張る華子に勇太が巨大イカやイルカのことを話した。
「お兄ちゃん、イカやイルカを助けてあげたから豊漁になったのかも知れないよ」
「漁が終わってからのことだから、それは違うと思うけど、神様の思し召しかも知れないね」
 勇太の言葉に華子は暖かい気持になった。ダメ男大先生のことを思い出したためだ。ほんの短い期間だったがダメ男大先生には言葉に表せないくらいお世話になった。死にそうな目にあったが、そこのところの記憶が欠落している。楽しいことばかりが記憶に残っている。可愛い子供がいたようだが、今になっては思い出すことも出来ない。またダメ男大先生に会えたならもう少しあの頃のことを思い出すだろうと、華子が思った。
 勇太は漁協で仲間と、イカとイルカのことで話をしていた。
「あの大きなイカとイルカをどうする?このまま居座わられたら漁に差し障りがあるかも知れない」
 不安がる若い漁師に対して勇太は、「自然のなりゆきに任せておけば勝手に解決するような気がするよ。今日だっていつもの倍の水揚げがあったんだから。自然に逆らえば碌なことがない。みんないつものように明日も頑張ろう」と言うのだった。

 セリが終わり、華子と勇太は自宅で遅い昼食をとっていた。
「イカって、どれくらいの大きさになるのかしら。島の周りにいるイカはマグロより大きいって、みんな言ってたけど。そんなの嘘でしょ」
「鯨くらいのがうようよいるんだって。嘘みたいな話だが、本当だ。ダイオウイカの種類らしい。けれどもみんな呆気にとられていたようで、写真を撮ることを忘れていた。ケイタイで撮れば済むことなのに」
 そんな勇太もイルカの大群を撮ることを忘れていた。っていうか、島だけの話題で十分だと考えていた。離島ではあるが、生きて行くには不自由がない。観光客も静かな島が好きな人だけ来れば良いのだから、と、全国的に知られて騒々しくなるのが嫌だと島民全員が思っているからだった。

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