隠し神 第3部 No.21

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『もう遅い。ダメ男。これでもくらえ』
 声と同時に俺の股間が蹴り上げられた。男の急所だ。普通なら飛び跳ねてもんどりうっているはずだったが、ただ飛ばされているだけで、痛みもなにも感じない。
「ダメ男君、観音様の中に入るんだ。中からモニターを見ればヘルヘイトの意識が残った変な物がある場所を見つけることができるはずだ、さ、早くするんだ」
 どこに千手観音があるんだ、靄で何も見えない。
「ダメ男君の股間にあるじゃないか。早く中へ入るんだ」
 そうだったのか。ヘルヘイトに蹴り上げられたけれど体にダメージがなかったのは千手観音が守っていてくれたためだった。
 俺はすぐに千手観音の中へ瞬間移動した。そしてモニターを見た。靄はない。海は凪いでいる。奇ッ怪島の前方が映ってるはずなのに、なんだかメタリックな感じがする。どこかで見た風景だ。揺りかごを最初に見た風景だ。幽霊船みたいな帆船が宇宙船のように変身しているのだ。
 俺は何がなんだか分からなくなってきた。
「今はわからなくてもいいよ。変な物を探すのが先だから。たぶん前方一〇マイルほど先の海にいるはずだ。ズームアップして探せば見つけることができるだろう」
 義父が勝手に話しかけてくる。
 仕方がない。俺は身ぶりでズームアップを試みた。遠くを双眼鏡で見ているように両手で円をつくる形にした、するとどうだろう。モニターはズームアップされ、そこに赤銅色の巨人が立っているではないか。なんだか一周り小さくなった感じがする。赤銅色の表面には細かいヒビが入っている。中にウリボーがいるかどうか調べなければならない。
 ここで色々なゼスチュアをすればそのまま反映される千手観音だから、今度はX線のように物の内部を見たいと思いながら空港などで手で検査する金属探知機だと思うが、丸い装置をイメージした。モニターに顔の形が写し出された。それが徐々に首、胸、腹へと下がっていく。まるでレントゲンだ。
 しかしこの巨人の中は空洞でウリボーはどこにもいない。腹部も空洞だ。こんなのでどうしてあんなに強力な力を発揮できるのか不思議に思う。今度は向かって左、つまり右足を上から順にスキャンする形にしたが、足の親指の先まで映したが、何もない。左足も同じだ。
 この巨人は全くの張りぼてなのだろうか。意志を持つ張りぼてなんか信じられない。ヘルヘイトの怨念だけで動くなんてことも考えられない。あの変な物が形を変えて巨人になっているはずだ。絶対にこの巨人にくっついている。俺は初めに思ったことを、もう一度信じて巨人を再度スキャンした。全くさっきと同じだ。
 まだ見逃している何かがあるはずだ。木を見て森を見ず、なのか、森を見て木を見ず、なのかも知れない。ま、どっちでもいいや。全体のX線写真みたいなものを見たら判明するかも知れない。
 俺は引いた形でもっと鮮明に全体を見たいと念じた。すると人間みたいなシルエットがモニターに写し出された。各部位に少し濃いところがある。これだ、と俺は確信した。濃い部分は人間に例えれば関節の部分に点在している。変な物はそれぞれの関節を動かしていると考えるのが妥当だ。
 このように考えると、各部分を繋ぐ神経組織のようなものが必要だ。人間の体で曲げることのできるところは百ケ所くらいはある。それをコントロールするのものは、ともう一度念入りにみた。頭ではないが首の付根あたり、つまり胴の一番上に細かいヒビが密集している所がある。そこが指令室で、そのヒビの線が繋がって各部を動かしているのだ。
 そうと分かれば千手観音で首の付根を破壊すれば巨人は崩壊するだろうが、変な物がバラバラになってしまい、完全に生滅させることができなくなる。ウリボーの居所もまだ分かっていないし……。
「ダメ男君が探査したおかげで色々なことが分かったよ。それじゃ、とっておきの手を使うとするか。あの首の付根めがけて千手観音をぶち当てるんだ。猛スピードで激突だ。失敗は許されないぞ。さ、やりたまえ」
 さ、やりたまえ、と命令口調で義父は言うが、とっておきの手というものも分からないまま、ただ当てるだけなんて、後で、それはダメだったなんてことにならないか心配だ。あまりにも不確定要素が多すぎる。
「まだグダグダ考えているのか。ダメ男君はすぐに行動に移すから良いのであって、考え過ぎは良くないぞ。心配するな」
 もうやけくそだ。俺は奇ッ怪島の上空高くへ千手観音を上昇させた。水平線近くに巨人がいる。下の奇ッ怪島は葉巻型のUFOみたいに見える。

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