隠し神 第3部 No.20

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 俺は思いきり駆け足のゼスチュアで巨人から離れ、そして上を向いて思いきりその場で飛び上がった。千手観音はこれまでにない速さで海面をめざした。
『臆病者めが。元締がいなければ何もできない駄目男が。だからダメ男なんだ。ハ、ハ、ハ。さ、今度はどう避ける。行くぞ』
 上からドーンと衝撃が走った。俺が乗っている千手観音は上、下、斜めと、出鱈目に回転した。目が回ったが、さすが観音様だ。壊れることはなかった。
「ダメ男君、早く海から出ろ。そして瞬間移動で奇ッ怪島へ移動するんだ。早く!」
 切羽詰まった義父の声だ。海から出たら瞬間移動ができるのだ。ということは海の中では無理とういことだ。
「そんなことを考えず、早くしろ」
 義父の厳しい声だ。本当に怒ってる。
 ゼスチュアで何度も高く飛び上がった。回りの色が明るくなってきている。もうすぐ海面に出ると思った。その瞬間周囲が真っ暗になり、観音様の頭が何かにぶつかった。ちょっと横へ移動しようとしたが動くことができない。
『嵌まったな。おまえの義父の行動パターンくらいとっくにお見通しだ。これでもう身動きできないぞ』
 ヘルヘイトの声は勝ち誇ったように高らかに頭の奥に響いてくる。それだけで頭が割れそうに痛い。
「ダメ男君。なんとかしろ」
 それで終わりだ。こっちから呼びかけても応答がない。
『義父から見捨てられたみたいだな。さ、このにっくき千手観音もろとも捻り潰してくれるわ』
 ヘルヘイトの巨人は千手観音に力を入れて潰そうとした。その時だった。白毫のあるところから閃光が放たれた。海が泡立っているみたいで、この観音様の中も暑くなってきている。巨人の手から離れたようだ。周りが明るくなった。
 海面に出た。大荒れの海だ。巨人は何処に消えたのだろうか。辺りにはいない。
「早く奇ッ怪島へ移動するんだ」
 義父が怒鳴った。巨人を探している場合じゃない。心に奇ッ怪島を思い浮かべ、目を瞑った。あの時空を移動する光景がコマ落としのように目の裏に映っている。ヘルヘイトが消滅した時に何か小さなものがイデレブラの衣服にくっついた光景がスローモーションではっきり確認できた。
 俺は奇ッ怪島のデッキに立っていた。このぼろぼろの帆船はもう幽霊船と同じだ。神様も人間も、そして鼠一匹乗っていない。神様が揺りかごでウリボーの中で寝ている間に揺りかごは完全に奇ッ怪島から分離されてしまったのだ。そんな奇ッ怪島に義父はどうして来させたのだろうか。巨人を探してウリボーを救出するのが先決のはずだったのに。
「ダメ男君。また色んなことを思い浮かべているけど、千手観音をちゃんと立てておかなきゃ、勝手にこっちへ帰ってくるよ」
 あ、どこにあるのだろうか。甲板には見当たらない。操舵室にあるのかも知れない。あの階段を降りると、薄暗い中にボーッと千手観音が輝いている。ちゃんと立っているじゃないか。近づくと、あの白毫が海中のときと同じように輝きはじめた。しかしその色は暖かいオレンジ色になっていた。
 オレンジ色の光の向こうに目をやると、そこにはウリボーがぐったりしている光景を大きく映し出している。ウリボーは俺が見ているのに気づいたのか、こっちを見た。
「僕はいまのところ大丈夫だよ。奇ッ怪島で早く助けに来てね。そうすれば神様たちも自由になり、みんな自分の仕事をに戻ることができるんだ。時間がないよ」
 ウリボーは大丈夫なように言っているが、本心は不安でいっぱいなのだ。しかし千手観音ではなくて、どうして奇ッ怪島なのだろうか。こんな幽霊船で何処へ向かえば良いのか分からない。
 あ、白毫の発光が止まった。操舵室はまた暗くなった。
 こんな暗い中で行き先を考えてみても、埒が開かない。もう一度甲板に出た。無風で靄が立ち込めている。何も見えない。波の音さえ聞こえない。大海原の中にいるなんて考えられない。なんだか別世界にいるようだ。
 グエーッ。いきなり腹部に衝撃が走った。続いて顔面にパンチが飛んできた。目から火花が出た。怒鳴り声が聞こえていたが、だんだん遠ざかっている。
 俺には第一撃がくる寸前でヘルヘイトが襲ってくるような予感がしたが、避けることはできなかった。次はもっとダメージを受けるだろう。向こうは俺の居場所を知ってるのだから。

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