隠し神 第3部 No.17

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「お義兄さん、これをご存知ですね。お姉ちゃんと私がお祈りした千手観音です。お義兄さんが違う次元へ行った時の乗り物にもなったはずです。この千手観音は我が家の家宝なんです。これをウリボーにある揺りかごへ持って行き、神様達を乗せればなんとかなるそうです」
 テーブルの上に風呂敷に包んで立ててある四角い箱を指さして紘子が言った。
「紘子って父さんが話してたことをそのまま言ってるだけじゃない。それでも肝心なことを忘れているわよ」
「なんだったっけ母さん」
「私は知りませんよ。聞いてなかったから」
「母さんに聞いても無駄よ。父さんの話すことなんて何も聞いてないか、聞いていてもすぐに忘れちゃうんだから」
 洋子は手厳しく言った。それでも義母はのほほんとしている。糠にクギだ。自分の役目は夫と仲良く生きることだという確固たる信念を持ってるのが義母のようだ。
「父さん、この人に千手観音の飛ばし方を教えて上げて。私もはっきり覚えてないから」
「お姉ちゃんだって忘れてるじゃない。父さん、もう一度お願い」
 千手観音の飛ばし方なんかあるのか。あれは元締が手近にあった仏像を利用したものと思っていた。田中家の家宝であり、時空を越えることができるいわば宇宙船のようなものだなんて、思ってもいなかった。
「ダメ男君、よく聞いて覚えてくれたまえ。一人でウリボーの揺りかごのところへ行き、神様を移してから、奇ッ怪島の変な物を退治するんだ」
 義父は風呂敷包みを開け千手観音を取り出し説明を始めたが、俺はちょっと腹立たしかったので聞いていなかった。
「あなた、ちゃんと聞いてよ。ダメ男と呼ばれて怒ったって仕方ないじゃない。それで通用するんだから」
 洋子に言われれば反論のしようがない。諦めて千手観音の動かし方の説明を聞くことにした。

 義父は仏像を丁寧に抱え、小さいながら我が家の庭へ出た。俺も後をついて庭に出た。庭の中央に置かれた千手観音は暫くすると勝手に横になり、そして大きくなった。この前と同じように扉が開いたので、俺は中へ入った。その後に義父もついて来た。
 中では義父と二人きりだ。
「洋子は気が強いだろ。うちの奥さんもだ。こうして千手観音の中にいるのが一番解放される時なんだ。ダメ男君もそう思うだろう」
 いきなり義父は愚痴るのだった。あの優しそうな義母も、洋子の母だから芯が強い女性なのだろう。男にには男の悩みがあるのは古今東西同じみたいだ。
「ええ、このごろちょっとおばさんぽくなってきたような感じです。近い未来に起きることや、僕の考えが分かったりする能力が増しているようです」
 俺も初めて他人に愚痴をこぼした。今まで神様以外の人間とは私的な話しなどしたことがない。こうやって他人というか義理の父と話しているとなんだか、本当の父のような感じがしてくる。
「さ、千手観音の飛ばし方を教えよう。なーに簡単さ。ここを押してから行きたいところへ身ぶり手振りで表現すれば勝手に連れてってくれるんだよ、じゃ、ピラミッドを見に行こう。そうだなクフ王のを作ってる現場にしよう」
 千手観音の眉間のホクロのような白毫にあたる部分を撫でてからは自由自在に飛び回った。義父は盆踊りをしているみたいに手足を動かしている。結構体力がいるみたいだ。
「外を見たまえ。みんな一所懸命に働いているよ。でも楽しそうだね」
 たぶん五千年ほど前のエジプトみたいだけれど、屈強な男が生き生きと働いているのが見える。観音様の目の部分がモニターみたいなっているようだ。千手観音はタイムマシンの役目も兼ねているのを改めて知った。元締に三階層上へ連れてってもらったのと同じことなのだと俺は考えた。

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