隠し神 下の巻 3

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 朝になった。誰かが部屋のドアを思いきり叩いている。洋子が咎めるように大きな声で返事をして、とにかくドアを開けた。ペンションのオーナーが立っていた。
「大変ですよ。表にテレビや雑誌の人達がわんさか来てるんです。先生が消えた電車を出現させるという噂が飛び交ってるらしいんです。どうなされます」
「ご迷惑でしょうから、とにかくみんなに会ってみます」
 外に出るとストロボが続けざまに光り、目が眩んだ。みんな自分の尋ねたいことだけを怒鳴りながら言うので収拾が着かない。その時だった。パンと乾いた音がした。静かになった。洋子がパーティー用のクラッカーを鳴らしたのだ。

「皆さん、こっちに注目。ダメ男先生のマネージャーの田中洋子です。ご質問は代表してお願いします。そうだ、そこの女性。そうです。昨夜現場中継していたでしょ。あなた」
 指名された女性は、矢継ぎ早に質問した。全部言い終わったあと、洋子がそれぞれについて答えた。みんなが知りたがっていた消失電車については俺の出番だ。
「消えた電車を出現させるためにここへ来たのではありませんが、皆さんにはそんなことは通用しないでしょう。今日中になんらかの結論をだすことができるでしょうが、良い結果ではないかも知れません。勿論私には電車を出現させるなんてことはできません」
 すると別のレポーターが尋ねた。
「昨夜、先生の家が全焼しました。ご存知ですよね。どうしてですか」
「知ってます。ここでニュースを見ました。どうして燃えたかは当局が調べているでしょう。私には原因は分かりません。仕事道具が無くなったから、これからが大変なんです。幸いデータはモバイルパソコンとメモリに保存してるから大丈夫ですけど。明日から住むところを探さなければなりませんから、今日の午後、電車が消えたところで私の考えを申し上げます。それまでここからお引き取り願います」
 またストロボが続けざまに光った。俺は手を振ってペンションの中に入った。連中がすんなり引き下がったのは、あの警察の不祥事を予言したことで、俺に敵意を抱いてないからだが、少し間違えば批難される要素が多分に含まれている。話題づくりのために俺が電車を消して、また出現させたと言う奴もいるだろう。あんなことを言ってしまったが、どうすれば良いのか皆目見当がつかない。十時になれば鬚爺さん達が真相を話してくれるのだろうか。
 そのころイデレブラは狸が原の山林にある一番高い巨木のてっぺんで瞑目していた。かなり強い風が吹いているが微動だにしない。あの女好きのエロ爺さんの顔ではなかった。目は閉じているが、一文字に結ばれた口に真直ぐな鼻筋。神様なのに仏様のような慈悲深い顔をしている。
『どうして電車を消したのじゃ。こんなことをすれば、真似をする馬鹿な神が増え、この世界に混乱をきたすではないか』
『電車を消したのは儂じゃないぞ。儂は人形を持ち主に返そうとしただけじゃが、予期せぬ力がはたらき、こんな騒動になってしまったのじゃ。儂の娘がこの世界に隠した人形がなぜ勝手な行動をしだしたのか、皆目見当がつかぬ。すぐに気付いたので戻せば良かったのだが、あいにく三日間の幼児研修と重なったから戻すことができなかった。ここ数日頻発しているヘンなもの窃盗事件はその人形達の仕業じゃ』
『ヨッチャンがこの世界に持ってきたのか。うちの倅より小さいから無理もないが、ルーガブラも大変じゃのう。しかし、この件を納めるのは難しいぞ。どうするのじゃ』
『ここの世界ではイデレブラが先輩じゃ。なんとかできぬか』
『原因が分かったから、電車はなんとか戻すことができるが、十三人が消えたままでは世間は更に騒ぐぞ』
『運転手だけは人間であるからそのまま戻すことにしてはどうだろう。あとの十二人は消えたことにしよう。盗んだ物を全部車内に置いておけば、不思議なことで済まされる。ダメ男に一役買ってもらえればいいのじゃが』
『わかった。儂の責任で処理をする。元締にはそう伝えてくれ』

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