身勝手小説の部屋

アクセスカウンタ

zoom RSS 隠し神 13

<<   作成日時 : 2017/08/22 09:23   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

画像
 音が止んだ。諦めたな、と思った瞬間、くしゃみが出た。目の前にイッチャンが立っている。今のくしゃみから出て来たようだ。右の鼻の奥が痛い。これにも俺はビックリだ。親子共々人騒がせな輩である。
「鬚爺さん。バイト料をよこせ」
 もう敬語なんて使うものか。
「だいぶご立腹の様子じゃな。しかしな、ダメ男。おまえがいけないのじゃ。言っただろうが、報酬を受けとって始めてコミュニケーションが成り立つと。こうして報酬を持って来てやったのだから、感謝せい」
 イデレブラは封筒を差し出した。ダメ男は中身も見ずに開きにくい引き出しにそれをしまった。
「おまえは人が良いのぉ。中身を確かめずにそのまましまうとは…。これじゃ、駅の売店で500円玉を出してガムを買い、お釣を確かめもせずにポケットにしまうのと同じではないか。だから人付き合いがうまく行かんのだよ」
 俺は、そんなのどうでもいいと思ってる。支払う側はきっちり数えているに違いない。多すぎるなんてことはないし、不足するなんてことも考えられない。だから疑うこともなく信用している。
「やっぱりダメ男は良い人なんだね、父ちゃん。人間を信用してるんだ」
「分かっただろ、ダメ男のことを。じゃ、儂は失礼する。あとは我が息子に任せる。今度からはイッチャンがダメ男の相手をすることになった。精々仲良くやることだな」
 イデレブラはそう言って消えた。消え際にポンと音がして煙りが少し漂っていた。
 子憎たらしいイッチャンが黙って立っている。話をしなければ可愛いいが、この後何を言うやら、ちょっと怖い気もする。
「ダメ男兄ちゃん。これからどうするの?」
 そんな風に尋ねられ、俺は考えた。
 アルバイト料も貰ったことだし、変な事件に巻き込まれるのは嫌だから、隠し神と手を切っても良いのではないか、と思ってることもウソではないが、最初に鬚爺さんが出て来た時、忘れていたことを思い出させたり、思っていることを先回りして答えていた。それを利用して金儲けもできるのだから、まだ縁を切らない方が得策ではないか。
「お兄ちゃん。どっちにする」
 やっぱりイッチャンは心を読んでいた。浮気調査に関係した三人も、このまま放っておくわけには行かないだろう。もうしばらくこのクソガキと付き合ってみるか。
「決まりだね。じゃ、僕は玄関にある靴箱で暮らすことにするよ。迷惑はかけないから」
 え、居候かよ。どこに居ても俺の心を読むことができるのだから、靴箱の中で暮らそうが、冷蔵庫の上でも構わないが、隠し神は何を食べているのだろう。育ち盛りだから、食費が嵩んじゃ困るのだが。
「気にしなくていいよ。僕の分は僕で賄うから。じゃ、あの調査をしていた三人からケリをつけましょう」
 ケリをつけましょうって、どうするのだ。だんだん大人びてきやがる、と思ってた時に電話が鳴った。

 間違えて勝手に電話を切ったあのクライアントからだ。
「中三日で頼むよ。良いものができたら、毎週仕事を回すから」
 そう言って電話は一方的に切れた。送られてきたファクスには、少々厄介なプレゼンの依頼が書かれていた。これじゃ丸まる三日パソコンと睨めっこだ。
 イッチャンも後ろからファクスの用紙を眺めている。俺が見終わったとき、イッチャンが勝手にデザイン専用パソコンの電源を入れた。
「使い方を知ってるのか?」
「だいたい」
 勝手にデザインソフトを立ち上げ、キーを恐るべき早さで打つ。文章を打ち終えたらレイアウトだ。速い。
 俺はタイピングに関してはセミプロみたいなものだけど、日がな文字ばかり打っているプロでも、とうてい追いつくことができない早さだ。小一時間で六ページを仕上げてしまった。
「はい、出来上がり。プリントアウトして早くクライアントへ持って行こうよ」
 仕方なくイッチャンの言うとおり、届けると、担当者は口をあんぐりさせ「こんなに早くできるはずがない。どうしてだ」といぶかし気に言う。
「御社の仕事が御無沙汰でしたので、暇な時間に各種パターンを考えていたのです。これにピッタリのがあり、全力で作ったんです」
 まさか子供にさせたとは言われないし、そんなこと誰も信用しない。担当者はそれでも不思議そうに俺を見、他社に回すはずだった仕事をくれるのだった。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
隠し神 13 身勝手小説の部屋/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる