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zoom RSS まんぷく酒場 ーみんな去ってしまったーその3 終わり

<<   作成日時 : 2017/06/15 09:03   >>

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今朝、いやな法律ができました。

日本も中国やロシアみたいな国になるのでしょうか?心配です。

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まんぷく酒場 ーみんな去ってしまったーその3 終わり

 土曜日になった。まんぷく最後の日だ。明日のお別れ会には出席しないから、ちょっとしんみりとしてくる。ちあきなおみの『赤とんぼ』の歌詞に出てくるような「唄ってよ・・・」はもう御免だ。一昨日もさんざん聞かされた。今日は思い出話で終わろうと思っていた俺だが、こんな雰囲気の中でも唄おうとする輩がいる。
 あーあ、ぶん殴ってやろうかと思うけど、思うだけで顔を反対側に向けて他の人と話をする。
 早く三人娘が来ないかなぁ、とちょっと焦った感じになっている俺。最後なのでひっきりなしにドアが開く。もう一時間半くらい居座っている俺。迷惑をかけていると分かっていながらも、あの娘らが来るまでは、と思いながら席を立とうとはしない自分のイヤラシサを改めて認識する。これじゃ嫌われても仕方ないか。
 そんなことを思い耳障りな音を聞き、ちょっと嫌気がさしてきたとき、お目当ての三人娘が来た。志保には三年前に会ってはいるが友里恵と冬海は二十年ぶりだ。変わってないというとウソになるが、まだまだ若く見える三人。いや熟女になった分、色気を漂わせている。
 どこに腰かけるのだろうか? あ、春子さんは俺の近くから遠ざけるように、奥の方に案内した。やっぱりだ。十川が頼んだことを春子さんは実行している。俺が娘たちと話せば三年前のことが出ると思っているみたいだ。俺の後ろを通るときに少し言葉を交わしただけで、その後は独りぼっちの俺。娘たちは暫く春子さんと話をしていたが、食事のために出て行った。その空いた席に自分勝手で春子さんからも煙たがられているヒロコといつも唄うが音が外れている典子が入ってきた。そんなオバサンでも次の客に席を譲るため、出て行こうとしたとき、「津辺やん、さっき来てた炉端のマスターのところに行くから、あとで来たらいい」と言った。

 十五分くらい経っただろうか、また客が来た。俺は出ることにした。春子さんが「帰ってくるでしょ?」と言うので、うなずいて店を出た。
 仕方がない、時間つぶしにヒロコと典子が行った炉端へ顔を出すことにした。
 炉端にはオバサン二人だけで、これじゃ三か月前の閉店を決心した時のまんぷくと同じだ。いやもっと儲からない店に思えた。ビールを注文してオバサンたちが食べていたゲソみたいなのをいただき、ちょっと話をした。典子が俺の携帯の番号を訊いてきたので教えたが、たぶん一度たりとも掛けて来ることはないだろう。
 トイレから戻るとオバサン二人は店を出ようとしていた。残った俺は頼んでおいた小鉢を食べ終え、お勘定と言うと千円とのこと。ま、最初で最後の店だから気前よく支払った(当たり前か)あまり美味しくなかった。
 またまんぷくへ戻る。三人娘は戻っていた。俺はまた三人から離れたところに腰かけることになった。話す機会がない。仕方がない。写真を撮ることにした。三人並んでいるので、ちゃんと撮ることができた。
 そうこうしているうちに十一時をまわり、志保が帰ることになった。今から瀬田まで帰らなければならない。もう限界ということだ。俺も帰ろうと思っていたので一緒に店を出ることにした。
 駅まで二人で歩いた。
「ごめんね、連絡できずに。メール旦那に見られてしまってできなくなったの」と、メールをくれなくなった理由を話す志保だった。俺を嫌いになったからかも知れないが、丸く収めるための志保の作り話だろうか。構わない。駅までの十分、久しぶりの再会で、ある意味、今日まんぷくに来てよかったと思った。


 二日後、俺はあの日に撮った写真をメールに添付して志保に送ることにした。三人娘の中でアドレスを知っているのは志保だけだったから。
 メールアドレスは旦那にバレたと言ってた志保なので、もう一つのアドレスで送ることにした。三年前のことだから、もうどうでもいいようなものだけど。友里恵と冬海にも転送してほしいと付け加えた。
 それから数日が経過したが、返信はまだ来ない。届いただろうか。知らないアドレスだから迷惑メールと勘違いして捨ててしまったかも。そういえば閉店の一週間前に遠くから来た元アルバイトの女の子へも写真を送ったが返事はない。津辺ちゃん津辺ちゃんといつも言ってアホな話題で騒いでいたのに。俺も嫌味など一言も言ったことがない。それなのに・・・

 春子さんという太い柱が店を支え、多くの人と繋がっていたが、お終いになったら。もう完全に無縁になってしまうということだろうか。
 志保たちを知って二十年経ったが、ちょっとした繋がりを大切にしていただけで、何も迷惑をかけることもなかった。それなのに・・・
 閉店から一週間経って春子さんに連絡した。すると「連絡しなくてごめんね」と最初の言葉。どう言う事だろう。俺は写真の件を切り出し「いっぱい撮ったんやけど、送り先が分からないから春子さん、送ってくれないかな」と言った。そんなことで二週間後に会うことになった。

「あら、ちゃんと三人分別々に袋に入れてあるのね。可愛いイラスト。津辺ちゃんが作ったの?」と春子さんは言った。
 写真を渡したついでに春子さんの住所を教えてほしい、と言ったが、やっぱりはぐらかされて教えてくれなかった。それなのに来月の俺の誕生日祝いのことで連絡するという。訳が分からない。

 写真を渡してから三週間が過ぎた。志保からの連絡はまだない、春子さんは本当に写真を送ってくれたのか。だんだん混乱してくる俺。
 十川からまんぷくが終わった翌月の初めの火曜日に電話があった。また飲みに行こうとのことだ。もう落ち着ける飲み屋は無いのに。志保と何かあったのだろうか。
 写真のことで、俺が志保から何の連絡もないことを十川に話したら、志保に筒抜けになるような気がした。それは自分崩壊の序章で、だんだん周りの人間が信用できなくなってくる。疑心暗鬼とでも言うのか、このままでは自分がみじめになるばかりに思えてきた。

 一日遅れの誕生会を春子さんの住まいの近くでしてもらった。初めてのお店で少し飲み、鍋をつつきお開きとなった。けれどもやっぱり住所は分からずじまいで、このあと年賀状を出すこともできなくなった。ということは、あの日で縁が切れたと思うべきだろう。

 俺の誕生日から二週間、十川が呑もう、と電話してきた。日時は来週の火曜日、時間は五時半、いつものところでの待ち合わせとなった。
「えらい早い待ち合わせ時間やなぁ」
「串カツ屋、すぐいっぱいになるやろ。そやから早よ行かな」
「そうやな。でも次の飲み屋決めてあるの」
「まあな。ジジイのしてる津辺ちゃんも知ってる店や」
「分かった。じゃ、火曜日」
 電話を切ってから、火曜日って、なんか引っかかるなぁ、と思ったが、前回会ったのがまんぷく閉店の最終週だったから、二カ月半ぶりとなる。
 串カツ屋で食べながら春子さんのことや早苗ちゃんの話が出た。早苗ちゃんの話題は十川と呑むとき、殆ど出なかったが、テレビで紹介されていたことを言うと、十川は即電話をかけるのだった。『この前、テレビに出てたね。頑張ってるようやね。近いうちに会おうか』と話している。いかにも自分がテレビに出ているのを見たような雰囲気で。そこで俺は確信した。
 こいつは他人のものでも隙があれば自分のものにする奴だと。

 串カツ屋は1時間で切り上げ、まだ早いがジジイが一人でしている飲み屋に十年ぶりくらいに行くことになった。十川は最近来たようだが、そんなのどうでもいいと思った。信用できないことがついてまわる。水割りを呑みながら十川がスマホの写真を俺に見せた。
 え、これって、俺が志保に送ったものだ。やっぱりメールは届いていたのだ。そして「これ津辺ちゃんも映ってるで」と言う。鏡に小さく写っているが、それは写真を撮っているときのものだ。俺が写真を加工したことも知っている十川、何を意図しているのだろうか。別の写真もあった。お別れ会の集合写真だ。これはどこから手に入れたのか。三十人以上参加していたので、誰が撮ったのか分からない。あ、早苗かも知れない。それ以外に十川に写真を送ることのできるのは、志保だけだ。でも志保は参加していないはずだったが。でも明らかにスマホで撮影したものだ・・・

 水割りをお代わりした時、ふと気づいた。今日は火曜日だ。十川は五時には来ていて、本屋で暇つぶしをしていたと話していた。
 馬鹿だなぁ。ホントにおバカさんの俺だ。十川は志保と昼に楽しんでいたことをようやく理解した。
 十川はたぶん、また俺と一緒に仕事をしていたと自分の会社に報告するのだ。奥さんがその報告を見ても、飲み屋の請求書を見ても、絶対に疑いを持たれないようにしているのだろう。志保との連絡は偽名のショートメールのはずだし、写真のデータは二人でいる場でやり、後で履歴を消したら済むことだ。これでまんぷく関係の写真も持っていたのだ。
 知らぬはタダ酒を呑んでいる俺だけ。今日以降、絶対に十川から電話はかかってこないことを確信した。だってもう必要のない俺だから。もしもかかってきたら、またこの場で報告させてもらう。
 本当に信頼できる人間、つまり親友はいるのだろうか。歳を重ねるにつれてむなしさが広がる。

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